米国でディストピア小説が売れているワケ 昔の作品がベストセラーになっている
本書の副題「Johnson, McNamara, the Joint Chiefs of Staff, and the Lies That Led to Vietnam(ベトナム戦争に導いたジョンソンとマクナマラ、統合参謀本部、そして嘘)」から推測できるように、ロバート・マクナマラ国防長官やリンドン・ジョンソン大統領の失策を説明している。
それらはすでに多くの書物が明らかにしていることだが、軍人であるマクマスターがJCSを率直に批判しているところが新鮮だ。マクマスターは、国防長官への忠誠心を優先して強く反論しなかったことや、JCS内で互いへの疑心暗鬼から一致した意見を大統領に提示しなかったこともベトナム戦争を泥沼化させたと信じている。
15章の「Five Silent Men(沈黙した5人の男)」では、統合参謀本部のメンバーらが、「憲法と国民に対する自分たちの責任」と「最高司令官である大統領への忠誠心」の間で葛藤したことが読み取れる。しかし、結局は軍人としての忠誠心が勝ち、「ベトナムの状況について誤解を招く証言することで、司令官たちは最高司令官を支持した」とマクマスターは書いている。
「お前はクビだ!」
もともとは軍事史の論文だとしても、一般人にも読みやすい歴史ノンフィクションだ。これを読むと、アメリカ大統領と側近が、憲法や国民を無視した政治的決断をすることの壊滅的な影響を再認識できる。
憲法と国民への責任よりも大統領への忠誠心を優先したJCSに対して批判的な意見を持つマクマスターには、共和党員だけでなく、民主党員も期待をかけている。自分に批判的なメディアをすべて「偽ニュース」と決めつけてホワイトハウスの記者会見から締め出す独裁的なトランプ大統領に対して、「国民への責任」を優先する勇敢な助言をしてくれることを願っているのだ。
期待に応えるかのように、マクマスターは、就任後初めてのスタッフミーティングで「テロ行為を行うイスラム教徒に対して『イスラム過激派によるテロリズム(radical Islamic terrorism)』というレッテルを貼るのは役に立たない。なぜなら、彼らはイスラム教徒らしくない行為をしているからだ」といった内容を語り、オバマ前大統領がISISなどのテロリストを「イスラム過激派」と呼ばないことを非難してきたトランプ大統領とは異なる見解を公にした。
問題は、トランプ大統領がスティーブ・バノン首席戦略官など側近の意見を退けて、マクマスターの意見に耳を傾けるかどうかだ。
トランプは、全米で2004年に始まった『アプレンティス』というテレビ番組で全米のスターになった。参加者が「見習い(アプレンティス)」としてトランプの会社での採用を競うもので、課題に取り組んだ参加者が番組の最後に重役室に呼び出される。そのうちの一人にトランプが「You are fired(お前はクビだ)」と言い渡すのが印象的で、流行語にもなった。
マクマスターが自分の本に書いた信念を貫くことだけでなく、トランプ大統領が自分への忠誠心を優先しない補佐官に対して番組の通りのセリフ「You are fired」と言い渡さないことを願うばかりだ。
(文:渡辺由佳里)
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