イタリア人に学ぶ「NOと言える人になる」方法 国連職員が学んだ「価値観の差超える」仕事術
ひととおりのあいさつを終え、午後になって私がとりかかったのが、Webでのややこしい証明書関係の手続きです。しかし、サイトは何度もフリーズし、なかなか前に進むことができません。
そこで助けを求めたのが、最初にあいさつをした、部署のアシスタントとして働く3人の女性たちでした。彼女たちの第一印象のよさも手伝って、ほかの外国人の同僚たちがどのようにこの局面を乗り越えたのか、そのコツを聞いてみることにしました。
まず、私の向かいの席に座っていた、3人の中で最も年輩でリーダー格の女性に声をかけてみました。事情を説明し始めると、当初の笑顔はうそのように曇り、彼女はきっぱりこう言ったのです。
「ごめんなさい。いまボスに頼まれた仕事があるのよ。悪いけれど、ほかの人に聞いてもらえる?」
突然繰り出されたシャープなNOのパンチに驚きました。顔面すれすれのところでかわして、やっとの思いで引き下がりました。
断られてしまったので仕方なく、もう1人に勇気を出して聞いてみました。すると、「ちょっと今、忙しいの。そういうことは、あの人に聞いてちょうだい」
こうして2人目からもNOのカードを切られてしまいました。何か悪いことでもしているかのような気持ちにおそわれた私は、恐る恐る彼女に指名された3人目のデスクを訪れたのです。相手の顔色をうかがいながら同じ質問をしてみると、彼女は少し困ったような顔を私に向けました。そして沈黙の後に、「……時間ができたら、調べるから」と申し訳なさそうに答えたのでした。
「仕事は安請け合いしない」
後日、私は上司のサンタクロースから呼び出されました。彼はもともと存在感ある顔を、さらに私に近づけてこう言います。
「いいか。本当に必要としている助けなら、いつでも出す。でもささいなことで、彼女たちに迷惑をかけるなよ」
ようやく私は、3人がチームをがっしり組んで、ボスに私の罪状を訴えていたことに気づきました。
でも私は、これでただ引き下がることはしませんでした。彼女たちのゴールを注意深く観察するようにしたのです。彼女たちが達成したいゴールは何か、何を大切に考えて意思決定を行っているのかを探ってみようと思ったのです。しばらくするうちに見えてきたのは、彼女たちの、「家族との豊かな時間を最優先にしたい」という思いでした。初日に私が話しかけたのは、実は、彼女たちの帰宅時間も迫った午後遅くの時間だったのです。
ボスから頼まれた仕事を終えなければならないのに、途中で、前触れもなく問題を持ち込んだ私は、さぞ迷惑だったことでしょう。
「仕事は安請け合いしない」
彼女たちはこの信念もあって、私の頼みごとを受けなかったのでした。さて、異動そうそうサンタクロースから注意を受けた私は、その後、何かを頼むときには、まず彼女たちのスケジュールを確認するようになりました。それも、できるかぎり謙虚な姿勢と自分なりの笑顔で。
そのあとは、どうなったと思いますか? 彼女たちの大切なゴール(=家族との時間を過ごすこと)の邪魔をしない点に、絶対留意するようになってからは、彼女たちは頼もしい戦友へと変化していきました。お互いの悩み相談にもたくさん乗りましたし、別れるときには抱き合うようにもなりました。
イタリア人のNOの言い方から、私が最も学んだことは、自分の大切なことを守ることと、そのための明確な優先順位付けと、そしてその行動の迷いのなさです。
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