トランプ大統領は、実は演説に超必死だった これから後も、市場をだませるとは限らない

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それでもこの議会演説は好評を博した。直後に行われたCNN調査によれば、演説を聞いた57%の人がVery Positive、21%の人がSomewhat Positiveと答えている。「2ちゃんねる」風に言えば、「サヨ(左翼)涙目」といったところか。しかるにこの変身ぶり、「トランプ必死だなw」と見ることもできる。

耐え難きを耐え、大人のふりをしたトランプ氏

ドナルド・トランプ氏がいかに声をからし、大統領令を乱発しても、ワシントン政治は動かせない。合衆国憲法第1条にくるのは大統領ではなく、連邦議会なのである。とにかく内政で何かを決めようと思ったら、上下両院の合意を得なければ何も始まらない。そのためには議会内はもちろん、メディアや世論の評判も良くしておく必要がある。

確かに共和党は上下両院で多数を握っている。ところが閣僚人事でさえ議会承認が済んでいない。この調子では、局長級や大使人事がそろうのはいつになることやら。さらには9人目の最高裁判事に指名したニール・ゴーサッチ判事の承認も渋滞している。

「トランプ相場」をもてはやす株式市場の側としては、早く税制改正なりインフラ投資、あるいは規制緩和を実現して景気を良くしてほしい。ところがその前に立ちはだかる壁は少なくない。たとえば「オバマケアの廃止」。共和党議員にとっては長年の悲願だが、本当に廃止したら医療保険を失う人たちが騒ぎ出して一大事、ということが最近になってわかってきた。だからといって、代わりにどんなものをつくるかという合意は存在しない。

党内コンセンサスがあるはずの法人減税でさえ、財源がおぼつかない。そこでVAT(付加価値税)ならぬBAT(国境調整税)の導入を、てな話も出ているが、大統領の議会演説で具体策は出なかった。せいぜい「驚くべき税制改革」(phenomenal tax reform)と言っていたものを、「歴史的な税制改革」(historic tax reform)と言い換えただけである。

トランプ大統領としてはつらいところであろう。仮に内政には目をつぶって、外政面で成果を上げたとしても、トランプ支持者たちはその性質上、全然評価してはくれるまい。となれば耐え難きを耐えて、選挙期間中に切りまくった手形を1通ずつ落としていくほかはない。この際、「大人になったふり」くらいは我慢して務めなければなるまい。

そして共和党内でも、「この大統領にはほとほと手を焼くが、それでも8年ぶりの政権復帰の機会を無にするわけにもゆかぬ」という現実主義者が増えている。たとえば今回の議会演説にしても、「相当な手練れ」がスピーチライターを務めたとしか考えられない。最初の1カ月間はほとんど「学級崩壊」状態だったホワイトハウスも、徐々に体制が整いつつあるのではないだろうか。

かくして翌3月1日、大統領の議会演説を好感したニューヨーク市場では、ダウ平均がとうとう2万1000ドルを超えて終値で史上最高値を付けた。とりあえずトランプ相場は、まだまだ続くということになるだろう。

とはいえ、危うさは残る。たとえば議会演説にあったとおり、「官民で1兆ドルのインフラ投資」が実行されるとしたら、当然、米国内の物価は上昇するだろうから、米連銀は金融引き締めに動くことになる。イエレン議長もつらいところで、3月利上げの可能性はかなり高まったんじゃないだろうか。あるいは3月16日から「米国債の債務上限問題」が再浮上する。はたまた「最初の100日」が終わる4月29日までに、トランプ政権は成果を上げられるのか。トランプ劇場はまだまだ続く。今後も当欄に請うご注目、と言っておこう。

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