三越伊勢丹、市場が騒然となった買収の顛末 シニア向け旅行会社と一致した思惑とは?
ネットで手軽に海外旅行予約ができ、個人が自由に旅行できる時代になっても、昔ながらの旅行会社であることにこだわっている。東京、名古屋、大阪に事務所を構え、頻繁に説明会を実施している。
ツアーの参加者は年間5000人に過ぎないが、顧客のリピート率は7割を超える。送客先も1人で60万円前後と高単価が見込める欧州が6割を占めており、移動時間を極力抑えたり、体調に合わせて歩かずに済むツアーを企画するなど、きめ細やかな商品設計に特徴がある。
今後10年内には「団塊の世代800万人超が当社の潜在的な顧客になる。黙っていても事業の拡大はできたろう」と同社の古川哲也社長は豪語する。
だが、転機が訪れたのは2016年1月のこと。創業者で、筆頭株主の久野木和宏氏が、持ち株の売却意向を示したのだ。シニアに強いとあって、株の引き取りには、同業他社を含め、投資ファンドや不動産会社など多くの会社が興味を示した。
その中でも三越伊勢丹ホールディングスを選んだのは「300万人弱という顧客網が魅力的だった」(古川社長)という。
三越伊勢丹の顧客網を活用できる
ニッコウトラベルには小粒ゆえの悩みがあった。社員数はグループ全体でわずか72人。「採用して1年研修して、現場に配属後、経営陣を育成しようと思ってもポストがない」(古川社長)。
かく言う古川社長もホテルオークラを経て、2010年に入社し、2012年に社長に就任した外部出身者だ。
今後は三越伊勢丹グループの傘下入りすることで人材交流や、同社の顧客網からの送客、特に富裕層に向けた商品訴求が期待できる。「三越伊勢丹は顧客を大事にする会社で、当社の社風と一致する。大会社で社員も安心できるし、本当にめでたい」(古川社長)
課題は何か。三越伊勢丹ホールディングスが傘下の旅行事業を切り出し、三越伊勢丹旅行を設立したのは2015年1月のこと。国内旅行が主体で、海外旅行の比率は低い。
そもそも、ニッコウトラベルが得意とするシニア層と三越伊勢丹が得意とする富裕層では、顧客層が同じように見えて、明確に異なっている。しかもニッコウトラベルはこれまで新聞を中心に広告戦略を展開しており、百貨店ほどのブランドを築いてきたわけではない。
さらに、日本の65歳以上の人口は2000年の2204万人から2015年には3395万人に増えたが、その間にニッコウトラベルの売上高は57億円から43億円に減少した。シニア層の増加が、同社の業績拡大と相関関係にあるとは言えないだろう。
「今回の騒動で当社を知った人もいる」(某社員)と嘆くぐらい地味な会社だったニッコウトラベル。ブランドを築き、消費者の信頼を得るには時間がかかる。はたして三越伊勢丹グループの傘下に入ることで、期待通りの成果を出せるだろうか。
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