メーカーvs.巨大流通 食品値上げの裏側
イオンは「価格凍結」 店頭では値上げ進まず
少子高齢化で市場が縮小する中、メーカーは工場稼働率を維持するため、安売りを仕掛けてシェア拡大を推し進めてきた。たとえば、一般的なカップ麺(店頭価格150円)の場合、卸値は130~135円程度。ただ、拡売費約40円が、値下げの原資として流通業者に支払われる(本誌推計)。スーパーの特売で98円という価格がまかり通るのはこのためだ。調味料の中にも、特売比率5割を超える商品は少なくない。
ただ、食品デフレの状況下で収益が悪化したため、安売り戦略を是正したメーカーは多い。食用油の場合、値上げも重なったことで世帯購入率は前年比98%に減ったが、購入金額は108%に改善した。「特売価格は298円から398円へと、少しずつ上げている」(食用油メーカー)。
そんな動きを尻目に8月、スーパー最大手のイオンは約100品目の「価格凍結」を宣言。一方で食品メーカーがすでに値上げを表明したマヨネーズや食用油などについては、2~3割安いPB(自社企画商品)を全面展開した。「そうしたPBの売り上げは絶好調。消費者の防衛意識は依然根強い」(久木邦彦・イオン専務執行役)。今回価格凍結に協力したメーカーの商品は売り場で優遇、販売数量増により「ウィンウィン」の関係を目指す。さらにメーカーから店舗への直送など、双方の物流効率化でコスト増の吸収を図る。
「(値上げ問題について物流面を含めて、メーカーに)一緒に考えましょうと提案している。今後は取引先を絞る必要も出てくるかもしれない」と、久木専務は話す。
これに対し、食品メーカーは「原価高と物流効率化は別問題。企業として適正な利益すら享受できないのか」(調味料メーカー)と怒りをにじませる。だがイトーヨーカ堂など他の大手にも価格凍結の動きが出ており、なすすべもないのが現実だ。
「調達先や代替原料を検討中で、味の変化は製造技術でカバーする」(菓子メーカー)という苦肉の策も浮上している。これまでなら国産から中国産への切り替えで原価低減が可能だったが、今やトレンドは“チャイナフリー”。原産地の切り替えは容易でない。しかも、賞味期限の印字ミスだけで回収しなければならないほど、日本の消費者は安全・安心に対する意識が高い。中小メーカーは「数千万円もする異物検査装置などの更新も厳しい」と困り果てる。
9月の“値上げドミノ”以後も、ビールやしょうゆ、豆腐、マーガリンなど値上げ予備軍の食品は多数存在する。「原料高と小売りの抵抗に挟まれて、身売りするメーカーも出てくるのでは」との声もある。値上げの浸透次第では、食品業界再編の行方が大きく左右されそうだ。
(書き手:前田佳子 撮影:尾形文繁)
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