「消費増税再延期」がデフレ退治の必須条件だ 政府のブレーンがノーベル賞学者に従うワケ

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浜田氏もその一人である。同氏は国際NPOプロジェクト・シンジケートの英文コラムで、見解を変えた理由を次のように述べた。「シムズ氏が説明したように、インフレを起こすには金融政策だけではなく、財政赤字増大を伴った財政政策が必要だ。2012年のアベノミクス開始当初は日銀による大量の流動性供給がデフレを克服すると予想されていたが、量的緩和が需要を喚起する効力は時間の経過とともに薄れる」。

FTPL学派は、デフレ克服には、政府が政策をやり抜く覚悟と中央銀行による支援が不可欠としている。同学派の重鎮であるエリック・リーパー氏は、コロンビア大のセミナーで、過去の成功例として1930年代のフランクリン・ルーズベルト時代の財政政策を挙げた。

円高是正策は首相の耳に届かない

浜田氏は、円相場に関するメッセージも発したが、こちらの方は安倍首相の耳には響きそうにない。浜田氏の主張を容れれば、トランプ米大統領に逆らう形になるからだ。

浜田氏は、日本経済の回復が円相場の反発で阻害されているとして、円高是正には為替介入と日銀による外債購入が必要と主張した。第2次安倍内閣発足直後の2013年に開かれた20カ国・地域(G20)財相・中銀総裁会議で、米国などが円相場押し下げ目的での外債購入を行わないことで合意したのを受け、日銀は今、購入対象を国内債に限っている。

金融緩和の副作用として円安が続くかぎり、世界各国の金融当局はそれを許容する。だが一国の中銀が外債購入による介入に踏み切れば、保護主義者だけでなく、多くの政府がそれを為替操作だとみなすだろう。

安倍首相はこうした問題を双方の財務相に委ねることでトランプ氏と合意し、とりあえずの勝利を収めた。だが、トランプ氏のツイートを止められるわけではない。今後トランプ氏に挑戦する姿勢を示せば、カウンターパンチを食らいかねない状況にある。

週刊東洋経済2月25日号

リチャード・カッツ 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Richard Katz

カーネギーカウンシルのシニアフェロー。フォーリン・アフェアーズ、フィナンシャル・タイムズなどにも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。目下、日本の中小企業の生産性向上に関する書籍を執筆中。

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