「原宿駅改良計画」に渋谷区が不安を抱く理由 外国人を魅了する建築物が姿を消す可能性も
しかも、JR東日本の冨田哲郎社長は、経団連の観光委員会の委員長も務めている。そうであれば、原宿駅のような財産は解体するよりも、むしろ保存するように努めるべきだ。現在、約1700あるJR東日本の駅のうち、竣工50年以上経っているのは約500駅ある。JRは電車や機関車については、「保存鉄道」という形で保存に力を入れているが、さらに駅も「鉄道遺産」という形で保存してもいいのではないだろうか。
保存には費用がかかるが、歴史的建造物を保存することは企業のイメージアップにもつながるし、適切に修繕されればすばらしい観光名所になる駅も出てくるだろう。そうすることで、JR東日本は、歴史的建造物の保存だけでなく、それをうまく観光資源として生かすリーディング企業になれるはずだ。
原宿駅解体は「文化的な自殺」である
原宿駅のような歴史的建造物の保存に対して、東京のみならず、日本人が関心を持つことは重要なことだ。なぜなら、私たちが声を上げることで、民間企業の思いどおりに街が変わってしまうことを防げるからだ。
たとえば、銀座6丁目の松坂屋跡地。森ビルは当初、六本木ヒルズのような高層タワーを建設することをもくろんでいたようだが、地元商店街やシャネルのリシャール・コラスCEOが反対したことによって、56メートルの高さ制限に合意した。もし、本当に超高層ビルが銀座のど真ん中に建設されていたら、そのビルが銀座の優雅な景観を台なしにしていたに違いない。
同様に、原宿駅が原宿や表参道地域にもたらす影響は大きい。銀座・和光の時計台や、新宿伊勢丹もそうだが、歴史的価値のある建物はそれだけで、その周辺地域の価値を上げ、活気をもたらす効果がある。
「原宿駅はそういう街角建造物の代表。東京にいくつかある木造建築の中で、唯一現役で誰もが親しんでいる建物ではないか」と、モダニズム建築に詳しい京都工芸繊維大学の松隈洋教授は指摘する。「これがなくなると、原宿駅周辺の歴史的な連続性が決定的に失われてしまうのは明らかだ」。とりわけ、「特に東京は古い建物がほとんど残っていないので、今残っているのは本当に貴重だ」と、松井氏も言う。
フランス人の私から見ると、原宿駅を取り壊すことは「文化的な自殺」としか言いようがない。多くの日本人観光客がパリにやってくるのは、東京にはないような「古きよき町並み」を体感するためである。
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