生徒たちが散らばると、神本教諭は体育館の一画に机を置いた。早速生徒たちが自分の技を見てもらおうと集まってくる。
「規定種目」では7種類の跳び方をそれぞれ4回ずつ成功させなければいけない。1回でもミスすればそこでおしまい。1種類の技を間違えて5回跳んでしまってもアウトだ。
跳び方にも個性が現れる
最初の生徒が「規定種目」の「E」をクリアした。見ていた周囲の生徒からも「おー」という小さな歓声が上がる。「規定種目」の難易度はM~Aの13段階。「F」まではクリアしないと桐朋生とは認められないといわれている。しかし、「A」をクリアした生徒は20年以上出ていない。
生徒たちの会話からは、「3回旋やった後に2回旋にいくのってちょっと嫌だよね」とか「こっちはEを跳ぶのに必死なのに、あんなに簡単そうにCとか跳ばれると困るよね」などという声が聞こえてくる。上手な友達に跳び方のコツを聞く生徒もいる。
よく見ていると、跳び方にも個性があることがわかる。陸上部の短距離走の選手だという生徒は、身長はそれほど高くはないものの、筋肉の塊のような体をしている。上半身の筋力を生かして、パワフルな跳び方をする。一方、長身で細身の生徒は、無駄のないなめらかな跳び方をする。
多くの生徒が「F」や「E」に挑戦する中、「B」に挑戦する生徒が現れた。「彼はうまいですよ」と神本先生が教えてくれた。周りの生徒たちもそれを知っている。注目が集まる。何度か挑戦したが惜しいところでミスが出る。
「これだけの連続技をやると、後半、手が回らなくなるし、ジャンプ力も落ちるんですよ。そして、あとちょっとというところで油断するパターンも多い」と神本教諭。逆に気負いすぎてミスをしてしまうというケースもある。最初から最後まで、平常心を保つことが重要だ。
気を取り直して同じ生徒が再び挑戦。1つ目の技をクリア、2つ目もクリア――。体育館中の注目が集まる。みんな声を潜めている。5つ目クリア、6つ目も――。最後は「速あや三回旋順交順」いわゆる「三重跳びのあや跳び」である――。成功!
「ウェーイ!!!」
体育館中がどよめく。
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