こうした人が巧妙なコミュ力を持ち、優れたストーリーテラーであった場合、人々を盲目的に従属させ、恐ろしい混乱を招く可能性があり、テロリストや独裁者など多くの歴史的人物がこのカテゴリーに当てはまるといわれている。
非常に傲岸でありながら、自尊心がもろいところがあり、称賛をされたい欲望が人一倍強い一方で、邪魔をする人や敵対する相手に対しては、激怒し、容赦なく打ちのめすのが大きな特徴だ。だから、ちょっとした批判にも過剰に反応する。
トランプの言動で、最も理解に苦しむのが、「批判に対する耐性の驚くべき低さ」だ。どんな小さなからかい、非難にも耐えられず、必ず、すさまじい勢いで反撃する。「なぜ、彼がささいな批判も聞き流せないのか」はアメリカのメディアや国民の大きな疑問であり、つねに「thin-skinned」(批判に敏感すぎる)と揶揄されてきたわけだが、仮に、上記のようなタイプであったとすれば、腑に落ちやすい。ナルシストを言下に否定することは「地雷のピンを抜くようなもの」なのだ。
また、トランプのツイッターを見ると、MAKE AMERICA GREAT AGAIN! SAD! BAD! などと大文字とビックリマークが多用されており、なぜこんなに強調するのか不思議でならなかったが、これもナルシストの典型的な主張の仕方のようだ。「すべてを大文字で記し、ビックリマークも多用するような、とにかく、人々の関心を今すぐ、惹きつけようとするコミュニケーションが特徴」(Psychology Today)とある。
すべてを二元論で片付けている
重ねて言うが、筆者はトランプの精神鑑定はできないし、確定診断をしているわけではない。あくまでも仮説でしかないが、こう考えると、彼の思考パターンは格段に読みやすくなる。彼の頭の中では世の中のものと人は「善と悪」「支持者と非支持者」という2つしかない。すべてが二元論で片付けられる。支持者=善、反対者=悪なのだ。彼の政治的主張や信条を伝統的な共和党・民主党といった軸で測ろうとすれば見誤る。彼の中の判断軸は、「支持してくれる人にどうやったらもっと愛されるのか」「敵対してくる相手をどう叩きのめすのか」なのだ。
もともと、彼は中絶やLGBTQなどに対して、比較的リベラルな考えの持ち主だったといわれる。支持者や取り巻きにもっともっと称賛されたい、認められたい、と考えるうちに、どんどんと彼らの考えに近づいていったとも考えられる。もちろん礎には彼のもともと持っていた確固たる思い込みや信念があるが、それと同時に、彼の中には、人々の「称賛」や「敵意」を何倍にも膨らませて映し出す「拡大鏡」があり、そこに映し出されるものに考え方が大きく影響されているような気がするのだ。
トランプの長年の友人でラジオパーソナリティのハワード・スターンはこう言っている。「彼はとにかく好かれたいんだ。愛されたいんだ。人々から歓声を受けたいんだよ。だから、大統領になって、(こうやって批判されることは)彼のメンタルヘルスを傷つけることになる。彼は出馬すべきじゃなかったんだ」。
トランプを突き動かすのは「褒められたい」「愛されたい」という思いなのかもしれない。これは人間の根源的な欲求だ。しかし、あまりに肥大化した承認欲求は、つねにそうした飢餓感から抜けられない、脆い自尊心の裏返しともいえる。強い自我を持っているようで、周囲に流されやすい。そういった側面も持ち合わせているようにも感じる。
さてさて、かように厄介な同盟国のリーダーと、日本はどのように対峙していくべきなのか。それについては、次回の原稿で改めてじっくり考えてみることにしたい。
(文中敬称略)
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