夢の国産旅客機 “来春離陸”まで3つのハードル

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「軽」の作り方

だが、MRJの弱点はYS11の生産中止から34年の空白があることだ。「床の間に飾るものではない。エアラインの各社各様のニーズにどう応え、ライフ・コストがどうなるか。そこまでの見極めができているか」(大手商社)。

プロダクトサポートについてはスウェーデンのサーブ社と提携したが、新参者の信用を補完するため、三菱重工は最大最強のボーイングにも協力を要請している。「さらに深い議論をしている」(戸田信夫常務)が、今日に至るまで、協力の具体的細目は決まっていない。

それもそのはず。ボーイングはMRJのライバル、ロシア・スホイ社のリージョナル機を支援する契約を結んでいる。ボーイングの狙いは、協力と引き替えに、500機以上といわれる高齢の中大型機の代替需要を取り込むこと。現実的な利害が掛かっているだけに、ボーイングを引き戻すのは簡単ではないだろう。

もう一つ、三菱重工が構想する信用補完策は「MRJ株式会社」の設立だ。MRJには500億円の政府支援が与えられるが、ほかに当座の所要資金がざっくり1000億円規模。これを重工各社や商社、サプライヤーなどからの出資で賄う算段だ。

MRJ株式会社の主導権はもちろん、三菱重工が握る。少数株主として同社と同じリスクを担おうという出資者が集まるか、だ。その点、川崎重工業も富士重工業も、腰が引けている。「成功してもらいたいが、日本のモノ作りは安くない。何でも日本で、となるのか」「リージョナル機は自動車なら、軽自動車。軽には軽の作り方がある」。

重工2社の指摘は痛い。MRJで最大の問題はコストである。ロシアも中国も、膨大な国内需要を背景に思い切った低価格を出してくるだろう。ただでさえ割高の炭素繊維複合材を多用するMRJ。燃費の3割改善だけでは、優位は決定的にはならない。

大胆なコスト削減には、低コスト国を巻き込んだ国際協業体制が不可欠だが、長くボーイングの下請けに甘んじてきた日本は、そうした経験もノウハウもない。「ハードルを克服できる見通しがついたから、ATOをかける」と佃社長。が、MRJには、まだ解きほぐさねばならない連立方程式が絡みついている。

(撮影:梅谷秀司)

梅沢 正邦 経済ジャーナリスト

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うめざわ まさくに / Masakuni Umezawa

1949年生まれ。1971年東京大学経済学部卒業。東洋経済新報社に入社し、編集局記者として流通業、プラント・造船・航空機、通信・エレクトロニクス、商社などを担当。『金融ビジネス』編集長、『週刊東洋経済』副編集長を経て、2001年論説委員長。2009年退社し現在に至る。著書に『カリスマたちは上機嫌――日本を変える13人の起業家』(東洋経済新報社、2001年)、『失敗するから人生だ。』(東洋経済新報社、2013年)。

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