東芝「解体」だけでは抜け出せない巨艦の窮地 「聖域」の原子力はそれでもやめられない

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1月27日の会見。綱川智社長(右)はメモリ事業の分社化のほかに、原子力事業を社長直轄にすることも発表した。写真左は半導体事業担当の成毛康雄副社長(撮影:梅谷 秀司)

特別決議もハードルとなる。分社化する際、新会社に移す資産が全体(単独)の5分の1を超える場合、株主総会で出席株主の議決権の3分の2以上の賛成を得る「特別決議」が必要だ。東芝は「移転する資産等の多寡にかかわらず、株主の皆様の意思を確認することが適切であると考え、臨時株主総会を開催し承認決議を取得する」としているが、今回切り出す事業が「5分の1」のラインに抵触するか精査している余裕がないというのが実情のようだ。

会社分割の実施は3月31日を予定しており、同時に2017年3月期決算で分社化する会社の株式売却益を計上するのが東芝の狙いだ。となると、分社化の手続きと併行して行う出資者探しは、「特別決議が通った場合」という条件付きで行わざるを得ない。3月末の売却を目指すとなると買い手に足元を見られる恐れは多分にある。

債務超過を防げないかもしれない

仮に3月末までに売却が間に合わなかったり、期待したほどの高値では売れなかったりすると、債務超過を防げないかもしれない。綱川社長はメモリ事業の売却以外でも「株式、不動産、その他資産の売却で資金を捻出していく」としている。その場合、上場子会社は真っ先に売却候補に挙がる。非上場では昇降機事業を行う東芝エレベータへの金融関係者の評価が高い。会社側は東芝エレベータを温存する意向だが、主力銀行の姿勢次第では守りきれるかはわからない。

最大の懸案は、原子力事業のリスクを最小化できるのかが分からない点だ。

今回、巨額の損失が発生し、金額が確定できない異例の事態となったのは、世界的な安全規制の強化の流れを受けて、原発の建設コストが大幅に超過しているため。対象となった米国のプロジェクトは総額2兆円、数%増えれば数百億円単位のコスト増になる。今後は、建設を伴う新設から撤退し、国内は再稼働支援・メンテナンス・廃炉、海外はメンテナンス・燃料サービスに集中する方針を打ち出した。さらに原子力事業を社長直轄にすることで、リスク管理を強化する。

もっとも、新規の建設から撤退しても、現在進行している米国の4基の工事をやめるわけではない。原子炉など主要機器類の販売も続ける。どこまで将来リスクを遮断できるかわからない。原子力はやめることができない”聖域”であることが浮き彫りになっただけだ。

東芝の看板事業だった原子力と半導体。将来の成長分野と位置づけていた原子力事業は頓挫し、足元での収益柱の半導体は切り売りする。それでもなお財務状況は脆弱でリスク事業を払拭しきれていない。昨年6月に就任したばかりの綱川社長は「去就は指名委員会にゆだねるのが基本。3月までは責任を持って資本増強を遂行していく」と語るにとどめた。

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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