北朝鮮への経済制裁が効かない本当の理由

制裁が目的化し、金正恩のダメージは少ない

ところが、金正恩政権になってから、北朝鮮は石炭の輸出を大々的に増やした。これは、かつて1950年代前後に朝鮮戦争からのダメージから復旧するため計画物量以上の地下資源を輸出していた時期、さらには1970年代に重化学工業への投資のため地下資源を集中し輸出していた時期と似ている。もともと北朝鮮の対外貿易において、石炭輸出が占める割合は約7%程度だったが、現在の北朝鮮の対外貿易ではほぼ40%以上を占める。

軽工業と農業分野の息を吹き返させるためには集中投資が必要であり、集中的な石炭輸出によって外部資本を引き入れようというものだった。この5年間の成果によって、現在の北朝鮮市場では中国産の工業産品のシェアが徐々に縮小し、北朝鮮産の製品がそれに取って代わるようになっている。食料品を中心に各種軽工業製品の工場へ投資がなされたため、そこから市場へと製品が出てくるようになった。

北朝鮮経済がマヒし、中国製品が北朝鮮市場を完全に掌握した、という言葉は、すでに昔の話になっている。これは、対北経済制裁が行われているにもかかわらず、最小限のことは北朝鮮の内部で自主的に生産できるよう、金正恩政権が整備した結果である。このような現象は2010年から今でも続いている。

石炭輸出で投資資金確保の意図

平壌の電線工場。独立採算制による経営がいち早く導入され、成功したモデル工場の一つ

以上、3つの限界を総合して見ると、北朝鮮は国連の経済制裁でも困っていないことがわかる。ただ、2016年11月30日に採択された2320号は、従来の経済制裁と少し性格が違う。今までは具体的な目標数値を提示するより、対外取引自体を抑制することに重きが置かれていた。ところが2320号は、北朝鮮産の石炭輸入規制などを対北制裁の骨子とし、年間4億ドル(約460億円)または750万トン未満で取引を許可している。これでは中国政府が北朝鮮産の石炭輸入で割り当てをうまくやり繰りするしかない。

北朝鮮にとっても制裁による影響は従来よりも大きくなりそう。今後5年間、北朝鮮は石炭輸出を増やして収入を得ることで、軽工業やエネルギー分野への投資資金を確保することになっているためだ。北朝鮮は2016年5月の第7回党大会で「国家経済開発5カ年戦略」を策定・決定し、大会直後から12月15日まで大衆動員運動である”200日戦闘”を行い、今後5年以内に達成する各部門別の目標を設定した。目標達成のために石炭輸出による資金確保が最も基本となっているはずである。

とはいえ経済制裁だけでは、北朝鮮の核開発を抑制するには限界がある。2320号にもすでに限界が露呈した。北朝鮮は年間4億ドルまたは750万トンの水準にすぐに慣れるためだ。中国は自国企業の要求が高まると、黙認するケースが増える可能性がある。2270号が発効した際、中国が独自的な制裁案を発表してからも北朝鮮と中国産の石炭需要が増え、貿易取引はより拡大していったことがあった。

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