トランプのトヨタ批判はかなり「的外れ」だ 安直なツイートでは雇用問題を解決できない

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2015年には、全米での日本車販売台数の約7割に当たる385万台が、現地生産された自動車となった。ホンダなど一部の外国企業は現在、米国で大量の自動車を生産して輸出にも回している。

小型トラックを除外した乗用車だけで見ても、日本メーカーによる現地生産車は全米の42%を占め、すでにビッグスリーの37%をしのぐ。米国メーカーは好採算の中小型乗用車を生産できていないからである。

今や米国外のブランド車販売台数のうち、55%は乗用車である。米国メーカーは、現在のようにガソリン価格が低くSUV(スポーツ多目的車)やピックアップトラックが人気を集めるような時期には有利だが、ひとたびガソリン価格が上がれば、国外ブランドがシェアを伸ばすことになる。

自動車雇用減の「主犯」は米国勢だ

トランプ氏はこうした自動車業界の現実を見逃している。それだけではない。米自動車産業の雇用が減っている主因についても誤解している。それは輸入が増えたからではなく、米国メーカーがメキシコに雇用の場を移した点に理由がある。

2016年の米国内での自動車生産台数は2000年よりも増えた一方、部品製造と組み立てを合わせた自動車産業の従業員数は約3割の落ち込みを示している。

米国の雇用縮小には、オートメーション化や生産効率の改善も追い打ちをかけている。2000年時点では、年間100万ドル相当の部品と自動車を製造するには12人の労働者が必要だったが、現在ではその半分の人手があれば足りるのだ。

輸入増や工場の国外移転の影響がなかったとしても、2000年から2015年にかけて、雇用は27%減ったと想定されている。これは現実に発生した減少率30%とほとんど差がない。

自動車業界に対して不満をツイートするのは簡単だが、問題の根本を解決することは難しい。トランプ氏はまず現状をよく理解すべきだ。

週刊東洋経済1月21日号

リチャード・カッツ 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Richard Katz

カーネギーカウンシルのシニアフェロー。フォーリン・アフェアーズ、フィナンシャル・タイムズなどにも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。目下、日本の中小企業の生産性向上に関する書籍を執筆中。

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