いよいよ日米で現実味帯びる「財政拡大政策」 トランプ次期政権が日本の「呼び水」になる

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米国の政策転換による成長率上振れがもたらすドル高は、日本の脱デフレにとって追い風になる。ただ、日本でも2016年半ばからわずかながらも拡張方向に転じた財政政策が、さらに拡大し成長率を押し上げることは、脱デフレ完遂を至上命題とする安倍政権にとって有力な政策オプションになる。首相官邸は、2016年夏場の財政政策転換前に起きた円安の動きを忘れていない、と筆者は考えている。

こうした中で、2017年初に英国のアデナ・ターナー元FSA(金融サービス機構)長官が、ジョージ・ソロス氏とともに安倍首相、日銀の黒田総裁らと面談している。ターナー氏の訪日は自著の出版タイミングと重なっていたのだろう。英国の金融当局の重鎮である同氏が、ヘリマネ政策について正面から論じているからこそ、先に紹介したように2015年からヘリマネ政策が、プロの投資家の世界ではもっとも重要な政策論点になっていたのである。

水面下で拡張財政の検討が行われている可能性

今回のターナー氏の訪日にどのような経緯があったか筆者は分からない。だが、同氏が安倍首相との面談に及んだことは、水面下で拡張財政の検討が行われている可能性をうかがわせる。2016年に、クルーグマン、スティグリッツ両氏が安倍首相らと面談、その後消費増税先送りの判断につながったことを踏まえれば、この2017年初の首相官邸の動きは重要である。

一方、日本では財政危機に陥っている(筆者には全く理解できない議論だが)という見方がメディアでは依然として多く、追加財政政策について懐疑的な見方が多い。いち早く増税を行うべきと主張する政治勢力もある。そうした見方の中には、安倍政権が主軸にしている金融緩和政策が、財政危機を深刻化させるという議論がある。

ただ、日本における財政赤字や公的債務拡大をもたらした主たる要因は、1990年代半ばからの長期デフレとそれに伴う成長停滞が長期化したことによる圧倒的な税収不足である。筆者は、日本が財政危機にあるとは考えていないが、こうした意味で財政健全化を実現するために必要な処方箋は、早期脱デフレと名目所得を上昇経路に戻すことであると考えている。

この点について筆者の分析を示した論説を含めた、原田日銀審議員、片岡剛士氏、吉松崇氏が編著の書籍「アベノミクスは進化する 金融岩石理論を問う」が2016年末に発売された。金融岩石理論とは、金融政策は無効である、あるいは有効であるとすれば大きな副作用がありそれが何の予兆もなく雪崩のように現れるという理論である。

筆者はこの書籍の全12章のうちの1章を担当しているが、筆者以外の8名のエコノミストが、これまでの日本銀行による金融緩和政策に対する批判論を、理論的・実証的に検討した内容となっている。今後の日本の金融市場の先行きを考える上で、投資家にとって投資判断の材料になりうるので是非手にとって頂きたい。

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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