あの鴻海・郭台銘がトランプを意識し始めた シャープを買った豪腕経営者が放つ大胆投資

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この声明の前日、ソフトバンクグループの孫正義社長は、当選したトランプ氏のオフィスに入り、米国での投資計画を手渡した。その中には、鴻海の中国事業である富士康(Foxconn)が将来約70億ドル(約8120億円)を米国に投資し、5万人の雇用を創出することが含まれていた

トランプ氏の発言よりも早く、郭会長はすでに米国での生産計画作成に数回、着手している。初期は高オートメーション率、ロボット活用、AI(人口知能)といった、米国が強みを持つ分野を中心とする。この原則の下、これまでわかっているところでは、短期的には大型サイズの第11世代液晶パネル工場が考えられているもようだ。しかし、長期的には、自動車分野向けが米国での生産の主軸になると考えられる。

自動車は単価が高いうえに粗利も高く、オートメーション率が3C(家電、情報、通信機器)よりも高いため、米国での生産に適しているからである。電子製品はすでに中国で大規模な生産拠点を持っており、これを大挙して移動させるのは効率が悪い。米国への投資計画を発表すると、郭会長のオフィスには、米国各州から招待状が吹雪のように舞い込んできた。どの州も郭会長による米国の最初の投資先になりたがっているためだ。

この声明発表の1週間後、中国で高い信頼を受けているメディア『悦涛』は、「富士康が逃げ出すのを防げ」と題する文章を発表した。「中国の実体産業で本当にレベルアップするチャンスがあるのは、富士康のような蓄積とリソース、サプライチェーンを持つ従来型産業であり、口先ばかりを追求するような新興産業ではない」というのだ。

印モディ首相の自宅にも招かれる

同時にインドも富士康への誘致を続けている。2016年の鴻海の株主総会で、郭会長は自ら、2015年1年間だけでインドを2回訪問したことを明らかにした。「私はインドのモディ首相から自宅に招かれて食事をした数少ない企業家の一人」という。

こうして鴻海は一躍、米国や中国、インド、韓国の綱引きの中で、各国共通の土俵にのし上がった。郭会長の一挙手一投足が、世界のハイテク産業を揺り動かす。2016年4月2日、鴻海のシャープへの資本参加の記者会見が開かれたが、それ以降、郭会長の影響力は、それまでよりはるかに大きくなったのだ。

日本メディアの郭会長に関する報道には、しばしば「軍隊式管理」「独裁者」といったマイナスイメージが根強い。このため、郭会長はより低姿勢を貫くようになっており、シャープへの投資に関して台湾メディアの独占インタビューを一切受けていない。メディアに登場するのは、シャープのトップとなった戴正呉社長ばかりである。

だが、4年の歳月と巨費をかけて手に入れたシャープに対して、郭会長の思い入れは並大抵でない。シャープに投資してからこれまで、郭会長が台湾にいる時間ははっきり減った。ほとんど毎晩、広東省深セン市にある富士康・龍華工場の戦情室で、夜遅くまでシャープのために戦っている。

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