新潟の「ぶっ飛んだ」列車はこうして生まれた 「同じ列車はダメ」デザイナー・川西氏の哲学
地域と鉄道事業者の関係を濃くすることは、いわゆる“マイレール意識”の醸成にもつながり、鉄道路線の維持・発展に貢献する――。ただそこにあり、走っているだけの鉄道から“地域の鉄道”に変わるきっかけに、観光列車はなりうるのかもしれない。
そして、川西氏がこれまで、そして現在手がけている鉄道関連のデザインにもこうした観点が大きく活かされている。そのひとつが、現在進行中の近畿日本鉄道橿原線の結崎(ゆうざき)駅のリニューアル。同駅は特急も急行も止まらず、1日に乗降人員は4000人程度という小さな駅だが、川西氏の出身地・奈良県川西町の中心駅ということもあり、声がかかったという。
「結崎では川西町が駅付近の道路拡張や駅前広場の整備などを含めてやりましょうということになったんです。そこで、最初はご多分に漏れず橋上駅舎にしようと。橋上駅舎につきものの自由通路は市道、つまり道路扱いなんですね。だから予算が使いやすい。一時期補助金が出たときもあります。ただ、エレベーターをひとつつければ年間維持費は100万円を超えるといいますし、高齢化が進んでいる町でお年寄りに高いところまで上って降りてをさせるのかと。近鉄の古い駅には構内踏切が多くて、危ないと言えば危ないんですが、こっちのほうがよほどバリアフリー。だったら、それでいいじゃないかということですね」
「1万分の1」より本当に大切なことを
昭和40年代に団地開発で人口が急増したという典型的な昭和のベッドタウン・川西町。ただ、往時に川西町に転居してきた人たちが齢を重ね、今は高齢化が進む町となっている。
「町としては、人口を増やしたい、若い人を増やしたいという意向がある。だったらどうするか。子育てをしやすい町にしましょうと。そうなれば、結崎駅を誰のための駅にするかははっきりしますよね。ベビーカーを使ったお母さん方のための駅ですよ。幸い、結崎は駅前にスーパーも銀行も全部揃っている。だったら駅の東西をベビーカーのまま踏切で往来できて、さらに子どもたちが遊べる公園のような駅にしよう、そう考えたわけです」
駅といえば、不特定多数が利用する公共施設。そのため、一般的にはすべての利用者の満足を満たすことを目指した設計・デザインが理想だと考えがちだ。だが、川西氏は「それは違う」と断言する。
「多くの鉄道事業者は、1万分の1に合わせようとするんですよ。たとえば、駅の中でタバコを吸うやつがいるかもしれないから燃えない素材にして、椅子を蹴るやつがいるかもしれないからFRP素材にしよう、とかね。安全第一というのはもちろんわかるんですが、その結果本当にその地域、駅にとって大切なことを見落としている場合が多く、ぼんやりしたものが出来あがってしまう。どのみち全員が喜ぶものなんて難しいですから、思い切って対象を限定し、その結果多くの人にも喜んでもらえるという方向性を目指さないといけないですね」
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