新潟の「ぶっ飛んだ」列車はこうして生まれた 「同じ列車はダメ」デザイナー・川西氏の哲学

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「彼らはおそらく朝東京を出て観光列車を楽しんで、夜は沿線の温泉宿に泊まる。2両編成でどうしてもキャパが小さいから、客単価を上げるしかない。一人1万円とか2万円ですよね。となると、それくらい払う方はたぶん東京から新幹線のグリーン車やグランクラスでやってくる。つまり、それに見合った質の高い観光列車にしなくてはいけません。格の高いホテル並みのサービス、そして良質の料理……ということは、ほとんど最初に決められたんです。あとは北陸・信越の観光列車激戦区を走るわけですから、ほかとは違うぶっ飛んだものを走らせないといけないということですね」

そして、この“ハイグレードの観光列車”を実現するために、具体化していく作業が求められた。えち鉄の運行区間は旧信越本線の「妙高はねうまライン」と旧北陸本線の「日本海ひすいライン」を合わせても全長約98キロメートルほど。その全区間を走って3時間ほど楽しんでもらうため、車内には細かい工夫が凝らされている。

とにかく「あっという間」に感じてもらう

「雪月花」2号車の車内。もう1両のインテリアはラウンジ形式になっている(撮影:尾形文繁)

たとえば、座席のデザイン。車窓をより楽しめるように窓側に少し座席を振り、さらに背面の肩部分を削り取ることで視野を広げている。バーカウンターのように“行ってみたくなる”場所を車内に設けたのもその工夫のひとつだ。

「デザインするにあたって、いろいろな観光列車を見に行ったんです。そうすると、まだ列車が走っているのに食事を終えたらスマホを見ている乗客がいたり、食事を配る乗務員が私語をしていたりするようなところもあった。まあ、失敗例ですよね。観光列車は、とにかくあっという間に感じてもらい、『もう着いちゃった、また乗りたいな』と思ってもらうことが重要。リピーターがたくさんつくことが成功の秘訣なんですから」

「だから、お客さんを座席から立たせて車内を歩かせて、停車時間中にはホームに降ろす。そういうことをしていかないとダメですし、それができれば2時間3時間はあっという間に過ぎるはずなんです。旧信越本線区間の、何度もスイッチバックをしながら右へ左へ妙高を眺めて進むという環境を存分に活かさないといけない」

このこだわりが功を奏し、昨年春の運行開始から好スタートを切った雪月花。土日中心の通常運行に加えて平日も団体貸切などで稼働し、ひと月で数千万円の売り上げにつながっているという。ただ、雪月花の車両は新造だったこともあり、これだけでえち鉄に利益をもたらすことは難しいのが現実だ。

「でも、この雪月花が地域とえち鉄をつなぐチャンネルになっている。これが大きいんです。ホテルや料亭など地元の一流の方々と深いおつきあいができる。二本木駅(新潟県上越市)などでは地域住民の方々も盛り上げてくださっている。こうして地域とのつながりが密になって深まっていけば、結果的に普通列車の利用促進にもつながる。観光列車の最大の意義のひとつは、こうした点にあると思っています」

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