安倍政権を賑わす「物価水準の財政理論」とは 他の理論との整合性欠き、誤用のリスクも

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また、財政出動すればGDPを需要面から押し上げ、GDPギャップが縮小する(ないしは需要超過になる)から物価が上昇する、というストーリーも、物価水準の財政理論が示唆するものとはまったく異なる。物価水準の財政理論は、GDPギャップの大きさとは直接的に関係はない。

さらにいえば、物価水準の財政理論が成り立てば、物価は政府の予算制約式(※)に従って決まるわけだから、労働生産性を高めることで賃金が上がり、それが消費の増大につながって、需要不足をなくすことでデフレから脱却するというストーリーも成り立たない。

デフレ脱却の意味自体を見失う恐れ

「物価水準の財政理論」が成り立つとき、デフレ脱却の主たる効果は、返済財源が十分に用立てられなかった政府の債務返済負担を軽くすることしかない。財政理論が成り立てば、デフレ脱却を目指して生産性を向上させるという実体経済にとって望ましい効果は生じず、デフレ脱却の意味自体を見失うことになる。

物価水準の財政理論の成否も不明なのに、その理論に従ってデフレ脱却を目指すべく政策的含意を引き出そうとしても、誤用してはナンセンスである。

物価水準の財政理論は、学界でも発展途上の理論である。この理論を、安直に財政出動を正当化するものに用いてはならない。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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