また、財政出動すればGDPを需要面から押し上げ、GDPギャップが縮小する(ないしは需要超過になる)から物価が上昇する、というストーリーも、物価水準の財政理論が示唆するものとはまったく異なる。物価水準の財政理論は、GDPギャップの大きさとは直接的に関係はない。
さらにいえば、物価水準の財政理論が成り立てば、物価は政府の予算制約式(※)に従って決まるわけだから、労働生産性を高めることで賃金が上がり、それが消費の増大につながって、需要不足をなくすことでデフレから脱却するというストーリーも成り立たない。
デフレ脱却の意味自体を見失う恐れ
「物価水準の財政理論」が成り立つとき、デフレ脱却の主たる効果は、返済財源が十分に用立てられなかった政府の債務返済負担を軽くすることしかない。財政理論が成り立てば、デフレ脱却を目指して生産性を向上させるという実体経済にとって望ましい効果は生じず、デフレ脱却の意味自体を見失うことになる。
物価水準の財政理論の成否も不明なのに、その理論に従ってデフレ脱却を目指すべく政策的含意を引き出そうとしても、誤用してはナンセンスである。
物価水準の財政理論は、学界でも発展途上の理論である。この理論を、安直に財政出動を正当化するものに用いてはならない。
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