「アメリカが提供すべき3つの“国際的公共財” 」ハーバード大学教授 ジョセフ・S・ナイ
アメリカは今、自分たちが仕掛けたイラク戦争に当惑して立ち尽くしており、大統領候補者たちは、イラク戦争後の外交政策の形を問い始めている。私は、アメリカはイラク後の外交政策として、“国際的な公共財”に焦点を当てるべきだと考える。そうすれば、アメリカの圧倒的なパワーは、他国の利益ともうまく調和できるはずだ。
純粋な“公共財”が存在しないのは当然だが、理想的な公共財として考えられるのは、きれいな空気である。空気はすべての人に同時に恩恵をもたらすことができる。そうした恩恵を求め、世界的な気候変動の問題に向き合うことは、国際的な公共財への貢献の一つの例であろう。
アメリカのような公共財の恩恵を最も享受する巨大国家は、指導力を発揮して、国際的な公共財のために多くの資源を投入しなければならない。そうでなければ、わずかな恩恵しか得られない国々が、国際的な公共財のために資源を提供する努力をすることはないだろう。もちろん最大の受益国が責任を果たせば、他国が“フリーライダー”(ただ乗りする者)となることもあるが、受益国が責任を果たさなければ、乗るものさえ存在しないことになってしまう。
今アメリカは、公共財の恩恵を直接受けると同時に、他国が注視する中で自らの圧倒的なパワーを正当化できるという“二重の恩恵”を享受できる立場にある。かつて大英帝国が圧倒的な存在感を放ち、ヨーロッパのパワーバランスを維持していたが、アメリカは今19世紀から教訓を学べる立場にあるのだ。
当時の公共財の意義は現代にも通じる。たとえば国同士の自由な貿易や通行を認めるルールは、19世紀と同じく、現在でも重要な公共財となっている。また現在では、地域間のパワーバランスを維持し、国境をめぐる紛争を収めることは、アメリカが提供できる国際的な公共財の一つである。国際市場を開放させることも同様に、アメリカに恩恵をもたらすだけでなく、途上国の貧困を緩和することにつながっていく。
現在、国際的な公共財への貢献は、新しい課題も含んでいる。たとえば絶滅種の救済、宇宙、サイバースペースといった“架空の共通空間”のあり方の問題などである。しかし、どの領域でアメリカ政府が指導力を発揮しようと、アメリカ国民の多くは、新しい公共財も“古典的な”公共財も、共に守っていくべきだと考えている。