中国人学生が聞き入る「日本企業研究」の中身

日本企業はいまだに謎だらけ

五十木氏は2012年に中国現地法人の社長に就任。仕事のかたわら2013年から1年間、北京大学大学院EMBA(エグゼクティブMBAコース)で経済政策や経営戦略などを学んだ。その際、中国の優秀な大学生たちと交流する機会が増え、彼らにとって、就職といえば公務員や国有企業、欧米企業が最優先で、日系企業はまったく人気がないことを知った。

日本人ビジネスマンの生の声を届けたい

「学生たちの間に、日本企業に対する誤解や、もしかしたら悪いイメージがあるのではないか」と思った五十木氏は「ぜひ、日本企業の活動や現場で働く日本人ビジネスマンの生の声を届けて、誤解を解き、日本企業のよいところをもっと知ってほしい」と考え、日本語学科の教授に講座を提案。そこで「日本企業文化論」の立ち上げが決まったという。

授業は毎月1回。金曜日の午後に3時間行われる。これまでに行った講義テーマは「日本企業文化の成立過程」、銀行や保険、製造業、広告業などの「業界研究」、「労働法・会社法に見る中日比較」など。五十木氏が日本企業の歴史やビジネス全般について講義するだけでなく、趣旨に賛同した北京駐在の日本人ビジネスマンたちにもボランティアでゲスト講師になってもらい、日本企業が実際にどのような経済活動を行っているかについて具体的に解説している。

ゲスト講師の「辻留」女将、辻育子氏

あるときには日本の有名料亭「辻留」の女将、辻育子氏の中国訪問に合わせて授業に協力してもらい、「京懐石における日本のおもてなし」という、趣向を変えたユニークな授業も行ったところ、学生たちに大好評だったという。授業には質疑応答の時間を設け、ゲスト講師が学生たちの質問や疑問について答えている。

五十木氏は「中国の大学でも日本の政治や経済について学ぶ機会はたくさんありますが、それは机上の学問であって、生きた経済や現場のビジネスについて日本人から直接話を聞く機会はほとんどありません。私自身の40年以上に及ぶ社会人経験も含め、中国に住む日本人ビジネスマンらが彼らの役に立つことはできないだろうか、そして、結果的に、優秀な中国人の日系企業への就職がもっと増えないだろうか、と考えました」と語る。

ゲスト講師の日立(中国)CTO田辺史朗氏

実際、五十木氏が行った授業では、想定していない質問を投げかけられることもあった。たとえば、「なぜ日本は終身雇用が多いのか?」「なぜ日本企業は残業が多いのか?」「女性差別は本当にあるのか?」などだ。五十木氏は「中国では終身雇用という考え方はなく、中国人は数年ごとに転職してステップアップしていくことが当たり前。そのため、終身雇用はわかりづらく、むしろ雇用の硬直化や、人件費の上昇など負のイメージのほうが浸透しているようです」という。

そこで「日本の終身雇用制度にはいい面もあると紹介しています。終戦後、日本でどのように終身雇用制度が確立されていったかなど、日本経済の歴史も説明することが肝心。戦後の日本企業の歩みや、社会の変遷を知れば、日本が一夜にしてこのような国になったのではなく、なぜ今日のような形になったのかが、順序立てて理解できるようになります」と話す。

授業を受講した女子学生のひとりは「なるほど、と思うことが多いですね。大学で日本語を学んでいたので、日本の文化や歴史はある程度知っていたのですが、日本企業の活動やビジネスの話は学ぶ機会がなかったので、どの授業もとても新鮮でした。日本企業にも興味が出てきました」と話す。

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