中国人学生が聞き入る「日本企業研究」の中身 日本企業はいまだに謎だらけ
昨今はSNSの発達で日本のアニメやドラマだけでなく、日本国内のゴシップネタまでも瞬時に中国に伝わるようになった。情報量こそ増えたものの、その質は玉石混淆だ。また、日本のアニメや政治ニュースは中国にも広まりやすいが、日本のビジネス情報はまだ大幅に不足している部分であり、中国に伝わる日本の情報はいびつで、偏っている(逆もまた同じだが)。
“本当の日本”の一端を知る貴重な場に
さらにいえば、これだけ両国関係が緊密になったのに、中国人が日本人一人ひとりの考え方や意見を耳にする機会はほとんどないといっていい(これも、逆もまた同じ)。言語の問題もあり、直接交流できる人は限られているからだ。それだけに、日本の有名企業に勤務しているビジネスマンによる手作りの授業や、授業後のざっくばらんなコミュニケーションは、中国人学生にとって“本当の日本”の一端を知る貴重な場となっている。
また、中国では就職の際、自分で履歴書を書いて企業に提出するだけで、日本企業のエントリーシートのような概念はまだあまり浸透していない。同授業では日本のエントリーシートについても説明し、「なぜわが社を目指したのですか」や「これまでにどんなボランティアをしたことがありますか」などの問いに回答することによって、中国の学生たちの就職意識を高めることも行っている。
現に同授業を開始した1年目、日系企業に就職したのは30人中わずか6人だったが、今夏は17人が日系企業に就職。現地採用ではなく、直接日本を目指し、日本企業のグローバル採用に合格する学生も出始めているという。『中国人エリートは日本をめざす』でも紹介したように、日本でより高度な技術を身につけたり、グローバルな仕事をしたいと思っている中国人学生は少しづつ増えているのだ。
とはいえ、上海で長年日系企業のリクルーティング事情に携わってきたコンサルタントの金鋭氏によると、中国国内での日系企業の人気はまだ低く、新卒を採用しているのも一部の大手企業に限られているのが現状だという。ただし、日系企業の間では、大学との関係を深めているところもあり、大学生が日系企業を見学する機会も、少しずつだが増えているそうで「企業側がもっと積極的に大学に出向いていくなど、地道な努力が必要ですね」と語る。
講座が浸透していく中で、日系企業への理解が深まる一方、授業を行っているビジネスマンにもよい効果がもたらされている。五十木氏と同時期に北京大学EMBAで学び、講師も務めたことがある薗田直孝氏は、こんな“副産物”があったと語る。
「教壇に立ってみるまで、北京大学の学生には中国を代表するエリート集団という固いイメージを持っていて、ギラギラした野望を持っているのではないか、と勝手な先入観を抱いていました。しかし、実際に会って話をしてみると、彼らがとても素直で純情であることに驚きました。
もしかすると、日本の大学生と同じく、壮大で小難しい話をするよりも、身近な話をすることでお互いに興味を持ち、共感し合えるのかもしれませんね。そんな当たり前だけれど大事なことに、逆に私たちビジネスマンのほうが気づかされ、むしろ学生たちに感謝しているくらいです。今後も、中国の若者と私たち日本人ビジネスマンの接点が増えていくといいですね」
北京大学の授業が評判を呼び、五十木氏は現在、上海外国語大学でも毎月1回授業を行っている。五十木氏は「これからも日系企業の駐在員たちに協力してもらい、活動の輪を広げていけたらいいですね。日本企業への理解が深まれば、日本に対する見方ももっと変わってくると思いますから」と語っている。
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