女たちはなぜ身体をトコトン鍛え始めたのか それは男の目線からは切り離された
これは、経験則ではなく伝聞だが、この世界でもっともシックスパック率が高い女性の職業は、“産後エクササイズ”を指導するバランスボールのインストラクターである。
彼女たちは、出産において体型が変化した女性の身体を元に戻すためのエクササイズを教えている。彼女たちは、出産後の妊婦たちに「出産前の身体を取り戻そう」とは言わない。代わりに言うのはこんな台詞である。
「これから先、どんなボディを得るのもあなたの自由です」
もちろん、当のインストラクターである彼女たちは、もれなく見事に腹筋が割れており、筋肉の線が見えるようなコスチュームをチョイスしている。
ビジネスとして見事、これこそ正しい商品の提示の仕方である。いやそれ以上に、インストラクターたちが自らの職業を夢と自由を売る職業に引き上げたことが素晴らしい。
「どんなボディを得るのもあなたの自由」
このテーゼは、出産後の女性だけの話ではない。現代では、誰もが自分の体型を自由に選ぶことができる。
だがそれは、現代社会を生きる我々に与えられた“くびき”でもある。誰もが「そのボディに同意しますか?」の表示を無意識の上でクリックさせられているようなものだ。裏を返せば、自堕落に弛緩しきった身体の持ち主は、それがあなたが自らチョイスしたものだとされてしまう時代。コンタクトレンズが普及した時代にメガネをかけている人は、「あえてメガネを選んでいる人」という意味を持ってしまうのと同じように、「あえて弛緩している人」ということになってしまうのだ。
その人が所有するボディは、エクササイズという投資の結果だ。そして、あらゆる現代人は、この投資市場の投資家として登録されているプレイヤーである。市場において最も重要なルールは、競技のための情報は、すべてのプレイヤーに公開されていること。情報の透明化が原則である。
実際、ボディ選択にあたって個人が取捨選択できる項目がたくさん提示されている。しかし、それが正しい情報なのかどうかは、完全にプレイヤーの判断に任される。さらに、それを選択するかどうかは、コスト的にもピンキリでもある。市場は公平だが、平等からはほど遠いのだ。