「食糧をエネルギーに、この転換は正しいのか」コロンビア大学地球研究所所長 ジェフリー・サックス

想像力と指導力にあふれる人材が必要

 それぞれの市場は互いに影響を及ぼし合い、連鎖を引き起こしている。小麦市場の需給が逼迫し、価格が上昇したために、多くの農地が小麦の作付け地に転用されている。その結果、作付面積の減ったトウモロコシや大豆の生産が落ち込んでしまった。さらにトウモロコシや大豆が食用ではなく燃料用に使われるようになったため、食糧供給はさらに逼迫している。

 世界の食糧需要の増加、トウモロコシなどの食糧用から燃料用への転換、大きな気候変動という“三つの脅威”がそれぞれ重なり合って、数年前に予想されていた以上に世界の食糧の需給は逼迫し、価格上昇を招いている。

 しかし残念なことに、今までのところ、こうした農業の変化に取り組むため、積極的に指導力を発揮した国はない。むしろ逆に、そうした動きを加速する政策が見られるのだ。たとえばアメリカでは、トウモロコシや大豆を燃料生産に転換させるために巨額の補助金を出しているが、こうした政策は方向が間違っているといわざるをえない。

 世界各国は希少な石油や天然ガスの代替エネルギーを開発するために、そして環境に優しい技術を開発するために、もっと真剣に協力し合う必要がある。にもかかわらず、協力は遅々として進んでいない。これが実情である。

 さらに貧しい国、特にアフリカ諸国の食糧生産の生産性を高めることも、緊急に達成しなければならない課題である。農業生産性向上のために、今後数年をかけて食糧生産を現在の2~3倍にする“緑の革命”を実施する必要があるのだ。この農業革命が実現しないと、世界の最貧国は、食糧価格の上昇と長期的な気候変動による農業生産の減少という二つの要因が重なり合って、最も深刻な打撃を受けることは避けられないだろう。

 食糧やエネルギーといった1次産品価格は今後も変動するだろう。そして、現在進行している農業危機はさらに深刻な様相を呈してくるはずだ。

 その結果、農業生産に関する持続的な技術開発が世界の主要な課題となることは間違いない。現在の私たちにとって必要なのは、こうした深刻な問題を理解し、国際間で協力しながら解決策を模索できる指導者なのである。

ジェフリー・サックス
1954年生まれ。80年ハーバード大学博士号取得後、83年に同大学経済学部教授に就任。現在はコロンビア大学地球研究所所長。国際開発の第一人者であり、途上国政府や国際機関のアドバイザーを務める。『貧困の終焉』など著書多数。

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