「食糧をエネルギーに、この転換は正しいのか」コロンビア大学地球研究所所長 ジェフリー・サックス
現在、世界的な傾向となっているのが自然資源の枯渇である。石油と天然ガスの価格の上昇が進んでおり、過去1年間を見ても、食品価格が急騰し、貧困国は厳しい状況に置かれている。富裕国と貧困国という国家間のみならず、都市と農村の間でも大きな所得移転が引き起こされているのだ。
こうした1次産品の価格が上昇した最も基本的な理由は、世界経済の成長が続いていること、特に中国とインドが高成長を遂げていることである。そうした国が高成長を遂げているため、土地と木材、石油、天然ガス、水の供給などが物理的な限界に直面している。その結果、エネルギーや食糧といった市場で取引されている1次産品価格が世界各地の市場で上昇しているのである。そして市場で取引できない清浄な空気などの財の場合、価格上昇ではなく、大気汚染などの問題を招いている。
世界の食糧価格の劇的な値上がりの背景にはいくつかの理由があるが、最も基本的な要因は食糧の消費量が急速に増加していることにある。ここでも中国経済の成長が大きな影響を与えている。中国の人々は以前よりも多くの肉を消費するようになっている。その結果、中国は大豆やトウモロコシを飼料として飼育された家畜の肉を、大量に輸入するようになっている。
さらに世界のエネルギー価格の上昇は、食糧生産のコストの上昇を招いている。なぜなら食糧生産のための輸送や肥料生産には、大量のエネルギーが必要だからである。エネルギー価格上昇の影響はそれにとどまらず、同時に、農家の食糧生産からエネルギー生産へのシフトを強力に促しているのである。
アメリカでは、2006~07年に生産されたトウモロコシの総収穫120億トンのうち、20億トンが燃料用のエタノール生産に使われているのである。そして07~08年には、メタノール生産に使われるトウモロコシの量は35億 に増えると予想されている。現在、70以上のエタノール製造工場が建設中であり、それが完成すれば燃料用に消費されるトウモロコシの量はさらに倍になると予想される。食糧用にトウモロコシを生産している農家は、こうした需要先の変動にさらされ、減っていくと思われる。
世界の農業生産の状況は、それ以外の基本的な制約要因、すなわち気候変動によってさらに悪化している。過去2年間、気候変動が要因となって引き起こされた災害に世界は何度も襲われ、小麦供給は大きなダメージを受けている。05~06年に生産された小麦量は6億2200万トンであったが、06~07年には生産量は5億9300万トンにまで減ってしまった。