目指すべき組織は、「全員でひとつの身体」だ 自衛隊特殊部隊に「非常時の組織論」を学ぶ
「ただ今から訓練を開始する。訓練項目、実施要領、すべて熟考に熟考を重ねて作った。これは、脳から血が滴り落ちるほど知恵を絞って、案をひねり出し、ようやく隊長の承認にこぎ着けたものだ。だから絶対の自信がある」
訓練項目、訓練要領、参考になる資料なんかあるわけがなかった。どの国の特殊部隊にとっても極秘中の極秘で、それがわかれば部隊の能力がわかってしまうからだ。だが、作戦が立てば、必要な能力は見え、訓練項目、実施要領を作ることができる。
大問題なのは、ここが特殊部隊ということだった。普通の人間ができっこないことを、できるような人間に育成し、その能力によって、想像もつかない手段で任務を完遂する部隊だからである。
訓練項目と実施要領は作れても、生身の人間の精神と肉体がどこまで耐えられるのかがわからなかった。やりながら見極めるしかなかった。
「絶対の自信があると言ったが、それは俺にはもうこれ以上の方法が思いつかないという自信だ。だから訓練前には必ず、なぜその訓練を実施するのかという目的と、なぜこの方法が最善だと思うのかという理由を説明する。全員が納得するまで訓練は実施しない。俺がそれをしなかったら訓練に参加しなくていい。おまえらには、納得できないことを拒否する権利がある。俺たちがやろうとしていることは、それくらいやばい。俺は、それくらいビビッてる」
彼らは、私の能力をまったく信用していない。しかし、わかったふりだとか、知っているふりを私が絶対にしないことも知っている。
参考にしたのは人間の身体
特殊部隊の創設時、組織作りで参考にしたのは、人間の身体であった。脳という強力なリーダーが、複雑な器官を巧みに管理し、運用し、連携させ、成長させる。この身体の中に目指すべき組織体制のすべてがあるはずだと思った。
自衛隊初の特殊部隊は自分たちの身体をとことん見つめることから始まった。最初にしたことは、隊員全員が一つの身体になることだった。
共通の目的のために自分のすべてをさらす。部隊内では、決して隠しごとをしない、うそもつかない。それが一つの身体になるための必要最低条件だった。
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