ベルギーが「過激派の巣窟」になった根本原因 首都郊外のモレンベークで起きていること

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――「拒絶」は移民家庭の出身だからか、それともムスリムであるからか。

どちらもそうだし、移民家庭出身でかつムスリムとなれば、拒絶された思いは強くなる。普段の他者の視線やなかなか仕事が見つけられないなど、雇用面でも苦労する。パリ・テロやブリュッセル・テロの後で、ムスリムはテロリスト予備軍と目されている。

拒絶感情の生成に大きな役目を果たしたのが極右の政治勢力ではないかと思う。1991年の国政選挙で大きく躍進したのが、私たちが今いるここフランデレン地域の極右民族主義政党の「フラームス・ブロック」。当時はムスリムの移民規制やフランデレン地域のベルギーからの独立を訴えた。

2004年に党名を「フラームス・ベランフ」に変えたが、反ムスリム、反移民の姿勢は変わっていない。1990年代から、何年にもわたり、反ムスリム、反移民に向けて国民をあおってきた。ムスリムで移民家庭出身の青年たちがベルギーには居場所がないと感じたとしても、不思議はないだろう。

若者の過激化を防ぐには?

――若者たちの過激化を防ぐにはどうするか。

その答えが分かったら、この国の首相になっている。しかし、まじめに言えば、短期的と長期的にできることがある。

短期的には シリアにジハード戦士としてわたり、ベルギーに帰ってきた人を徹底的に当局が捜査し、監視下に置くことだ。関係当局内で情報を共有すること。これは現在のジハード・ネットワークを撲滅するやり方だ。

長期的には疎外感をなくすことだ。具体的には右派の動きを止めること。フランデレン地域の右派勢力の伸びはすさまじい。フランスの極右政党「国民戦線」ともつながっている。欧州は今、難民問題に悩まされている。反移民、反難民感情が強くなっている。自分の国を守りたいという感情だ。英国の欧州連合離脱(=ブレグジット)の決定にも、無制限な移民の流入を止めたいという国民感情があった。

フランスで来年予定されている大統領選では国民戦線の党首マリーヌ・ルペン氏が勝利することはほぼ確実だと思っている。右派のパワーはそれほど強い。私が提唱したいのは、こうした右派パワーを抑えることだ。ますます反移民・反難民感情が高まるようにしてはいけない。移民家庭の出身者やムスリムたちを「同じ社会の中でともに生きる仲間」として見るようになるべきだ。

ISがテロを通して達成しようとするのは、国を二分することだ。テロの後で反ムスリム感情が高まり、差別が広がれば、ISはこう言うだろう。「ほら、欧州ではこんなにムスリムが虐げられているぞ」と。これにはまったら、ISの思うつぼだ。

小林 恭子 在英ジャーナリスト

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こばやし・ぎんこ / Ginko Kobayashi

成城大学文芸学部芸術学科(映画専攻)を卒業後、アメリカの投資銀行ファースト・ボストン(現クレディ・スイス)勤務を経て、読売新聞の英字日刊紙デイリー・ヨミウリ紙(現ジャパン・ニューズ紙)の記者となる。2002年、渡英。英国のメディアをジャーナリズムの観点からウォッチングするブログ「英国メディア・ウオッチ」を運営しながら、業界紙、雑誌などにメディア記事を執筆。著書に『英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱』。

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