毎朝4時退社で鬱病に!27歳男性の深刻事情 残業代も休憩もなく、時給換算すると658円

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だが、それらの負担は毎日続き、期待に応えられたのは最初だけだった。やがて何度努力を重ねても失敗を繰り返してしまい、大きなストレスや悩みを抱えてしまった。

そのせいで、朝起きられず、寝坊をして仕事に遅刻するようになった。「出勤しようとすると体が動かなくなるんです。金縛りにあったような感じでした」と、当時の体験を富田さんが振り返る。「『サボってないで早く仕事に来い。気持ちの問題だ』と電話で怒鳴られても、体が動かないんですよ。起きられないんです。わかります?」と言う。これ以上仕事が続けられないという気持ちは皆さんも理解できるのではないだろうか。

「薬を飲んでいないと気分が落ち着かず、死にたい気持ちが出てきてしまいます。早くもう一度働きたいとあせる気持ちもあったんです。それでますます悩みました」

富田さんは1年間休職しても、結局復職することができず、医師の助言どおりに、退職した。現在は、治療に専念するため、無職の状態である。

今後の生活が不安で仕方なかった

『貧困世代 社会の監獄に閉じ込められた若者たち』(上の書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

「貯金があったからそれで何とかなっていましたが、社宅から普通のアパートに引っ越したため、家賃もかかるし、今後の生活が不安で仕方なかったので」というのが、わたしに相談してきた理由である。

現在、富田さんはうつ病に至った職場環境を明らかにし、医師に意見書も書いてもらい、労災申請をして、その補償を受けられるようになった。

「僕の場合はたまたま病気と職場の因果関係が認められて、何とか補償を受けられることになりましたが、この制度を知らなかったり、認められない人もいると思うと、ゾッとします」

労災を申請することも重要であるが、前途有望な労働者である若者を早期に使いつぶす雇用環境の広がりこそが問題なのではないだろうか。若者たちにとって監獄のような雇用環境を強いる会社こそ、ブラック企業である。

このような相談は富田さんに限らず、増え続けている。その中にはブラック企業を退職し、20代で生活保護を利用して、精神疾患を治療しなければならない状態に追い込まれる若者がいることも事実である。以前執筆した記事も、ぜひ読んで欲しい。

藤田 孝典 NPO法人ほっとプラス代表理事

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ふじた たかのり / Fujita Takanori

1982年生まれ。埼玉県在住の社会福祉士。ルーテル学院大学大学院総合人間学研究科博士前期課程修了。NPO法人ほっとプラス代表理事。聖学院大学客員准教授(公的扶助論、相談援助技術論など)。反貧困ネットワーク埼玉代表。ブラック企業対策プロジェクト共同代表。厚生労働省社会保障審議会特別部会委員(2013年度)。著書に、『ひとりも殺させない』(堀之内出版)、『下流老人――一億総老後崩壊の衝撃』(朝日新聞出版)、『貧困世代――社会の監獄に閉じ込められた若者たち』(講談社)などがある。
 

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