「ガンダム」は、歴史を深く学ぶヒントになる 安彦良和総監督が語る現実世界との関連性

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――現実の政治を見ていても、米国の次期大統領やフィリピンの大統領のように、個人の感情が歴史を左右しかねないことがよくわかります。

もしゴルバチョフとエリツィンの仲がよかったら、ソ連は崩壊しなかったかもしれない。かつての米ソの冷戦時代はイデオロギーの対立という大きな枠組みで語られていましたが、個人の感情といった要素で歴史が変わるということを冷戦終結時に思い知らされました。先日、佐藤優さんと対談しましたが、佐藤さんもこうした考えを否定しなかった。歴史を学ぶ上でこれまで排除されてきた人間の感情や生い立ちを見ていかないと、歴史は見えてこないと思うのです。

――では、シャアが復讐心を起こさなければ戦争は起きなかった?

そうなりますよね。実際の歴史を見ても「あのとき、あいつがあれをしなければ」という例はたくさんある。でも、戦争の直接的な原因だけでなく背景を考える必要がある。たとえばオーストリア皇太子の暗殺が第一次世界大戦の引き金になった。この事件がなければ第一次世界大戦は起きなかった。でも犯人たちがなぜ皇太子を襲ったのかを考えると、背景にはオーストリアの民族問題があった。

シャアがザビ家に復讐を誓った理由は父親の不自然な死だけれども、父親の掲げていた思想を無視してはいけない。その思想は移民社会の歪みが生んだものであって、社会的な色合いを帯びている。だから戦争のきっかけをシャアの復讐心だけで片付けてはいけないのです。

ニュータイプだからララァに惹かれたのではない

――ころで、シャアはなぜ赤い軍服を着ているのですか。目立てば当然、ザビ家に目をつけられてしまう。

目立ちたいというのは彼の基本的天性。こそこそ立ち回ったらかえって怪しまれる。目立つほうがかえってばれないということもありますね。

――ではなぜ赤い色が好きなのですか。前作のラストシーンで「赤はいい色だ」と言っていましたが。

どうなんですかね(笑)。あまり考えたことがないけど。

シャアとララァの出会いは1枚の写真から始まった ©創通・サンライズ

――シャアはなぜララァ(ドラマの鍵を握る女性)に惹かれたのですか。シャアが主役の映画「逆襲のシャア」(1988年)では「ララァは私の母になるべき存在だった」というシャアのセリフがありますが、ララァに母の面影を感じたのでしょうか。

それはありません。母といっしょに暮らしていたころの幼少期の記憶をララァに感じ取ったのだと思う。ララァが家族と一緒に映った写真を持っていましたよね。ララァの家族は貧しく、ララァは稼いだ金を家族に送金している。そういう生活感にシャアが共感したと僕は思っています。

――ララァに「ニュータイプ」の片鱗を感じ取ったという可能性は?

ニュータイプという概念を僕は「以心伝心」だと考えています。現実にも第六感が優れていて、「えっ、言っていないのになんでわかったの?」という人がいますよね。この解釈以上のものではないというのが僕の持論です。

人と人とが分かり合えるようになったら、もし為政者がそうであったら現実世界がどれだけよくなるか。でも絶対にあり得ない。「人と人とは分かり合えない」というのがガンダムのいちばん大きなテーマだと僕は思います。

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