【石倉洋子氏・講演】感動する力・感動させる力(その6)

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東洋経済主催セミナー「Customer Satisfaction Forum 2008」より
講師:石倉洋子
2008年4月21日 大手町サンケイプラザ(東京)

その5より続き)

●自ら感動している実感が無ければ人に感動は伝えられない

 感動を与える企業、そしてそれを50年以上続けている企業、収益性を維持している企業という意味で、劇団四季の紹介をしてきたわけですが、感動を作る上で重要なのは人と人との直接の接触だと思います。これだけICT(情報通信技術)が発展した時代であっても。本当の感動は、直に会ってエネルギーや勢いを感じることから生まれると思います。本当に使命感に基づいてやっているとパッションを感じるのは、ICTだけではなかなか難しいです。ICTとの組み合わせは有効ですが、やはり感動は直接の接触から生まれると思います。まず直接の接触があり、それですごいと思ったら、それから後はICTが活躍します。ICTを活用すれば、どこにいても、いつでも連絡が取れるし、常に接触できる。この2つをどう組み合わせていくかが、カギではないかと思います。

●感動の波を共有できる人を持つ

 私自身、企業の事例を書く、一緒に仕事やプロジェクトをする原点には、ある種の「感動」があります。自分で本当にその気になれることをやりたい、本当に素晴らしい企業をもっと多くの人に知ってもらいたい、誇りにできる仕事やプロジェクトがやりたいのです。皆様も、自分が勤めている企業を本当に誇りにできるのか、本当にその企業にいてハッピーなのか、感動しているのかと自問自答してみると良いと思います。そうした実感がないと、人に感動は伝えられないと思います。

 また、感動する力、感動させる力において大事なことは、そういうことを共有してくれる人がいるかどうかだと思います。例えば私の場合、すごい人に会った、素晴らしい企業を知ったということを誰かに伝えたいのです。感動したといっても、その時にきちんと聞いてくれる人がいないとその感動は薄れてしまいます。子どもが「なぜ?」って言ったときに答えてくれないと、二度と聞かなくなるのと同じように。こんなにすごい人がいた、こんなに素晴らしいサービスにあったことを伝えると「すごいね。それでどこがすごいの?」と関心を持って聞いてくれる人がいると、どんどんその力が強く、また大きくなっていくと思います。「あ、そう」と言われたのでは、感動から生まれる興奮がしぼんでしまう。自分も感動を作ろうという気になっていたのが、くじけてしまいます。

 現在内閣の特別顧問をしている黒川清さんと一緒に書いた『世界級キャリアのつくり方』という本があるのですが、この本もたまたま会議で会って、黒川さんってすごい人だという感動や驚きから始まりました。すごい人だと思った私の気持ちを当人に伝えなければとまず手紙を出しました。それが結局この本につながり、その後もいろいろ一緒に仕事をしているわけです。私が黒川さんに何かに感動したとメールすると、「何がどうすごい?それで?」と、必ず返事が返ってきます。また逆に「この本は素晴らしい、こういう若い人にあったが、あのプロジェクトはすごい」などと言ってくることもあります。こうした交流から話が大きくなり、感動の波が広がるという感じですね。

 最後にもう一度申し上げたいのは、自分が感動しないと感動するような製品やサービスはお客様に提供できないということです。常に感動する、驚くなど、感度の鋭い心を自分自身が持つことが大事。自分自身の仕事や組織、扱っている製品に誇りを持ち、感動することが必要です。この仕事はつまらない、こんな製品を売ってどうするのか、こんなサービスをして私はいいのだろうかと思っていると、相手には感動は伝わらないと思います。また皆さんの感動をそのまま受け止め、一緒に「すごいよね」と言ってくれる人、そういう心を持って、「感動の波」を一緒に作ってくれる人を周りに何人持つかが、私は「感動」の決め手なのではないかと思います。つまり、いかに感動を共有できる場所、組織、企業に自分を置くかがカギになると思います。
(終)

石倉洋子(いしくら・ようこ)
一橋大学大学院・国際企業戦略研究科教授。
1985~1992年マッキンゼー社にて企業戦略のコンサルティングに従事。青山学院大学・国際政治経済学部教授を経て現職。
著書に『世界級キャリアのつくり方』(東洋経済新報社)『戦略経営論』(同・訳)など。

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