金看板「バーバリー」を失った三陽商会の苦境 業績低迷で中期計画を発表できず

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だが、金看板を失った影響はやはり大きかった。主販路である百貨店における衣料品の低迷もあり、新ブランドが消費者になかなか浸透しない。「マッキントッシュ・ロンドンは想定の3分の2の水準で推移。(ブルーレーベル、ブラックレーベルを承継した)クレストブリッジについては、バーバリーとの契約の関係上、数字はお答えできない」(杉浦社長)。

マッキントッシュは1823年から続く英国の高級アウターウエアブランド(記者撮影)

売り上げの低迷が続く中、同社はコスト削減を急ぐ。10月には全社員の2割にあたる249人が希望退職に応募。また「ポール・スチュアートスポーツ」や「アレグリ」など5ブランドの撤退を決め、今後さらに2ブランドを追加する。立地条件やスタッフ(FAと呼ばれるファッションアドバイザー)の人数などを考慮して、170の不採算売り場の閉鎖にも踏み切る。マッキントッシュ・ロンドンなど、戦略ブランドについても売り場削減の可能性があるという。

ただ主力の百貨店チャネルの衰退をはね返すことは簡単ではない。同社は百貨店以外の販路拡大やネット販売の強化などを模索するが、定着しないのが実態のようだ。

縫製技術をどう生かすか

アパレル業界に詳しいオチマーケティングオフィスの生地雅之氏は、今後百貨店アパレルが存続するための道として「百貨店グレードの工場や技術による受託生産の拡大」を挙げる。

中国など海外工場に生産委託するファストファッションとは異なり、三陽商会は多くの商品を自社で企画し日本国内で製造する。マッキントッシュ・ロンドンも、自社における一貫展開が特徴だ。同社の縫製技術は業界でも評価が高く、青森にはコートの専用工場も持つ。

今後はこうした技術力をいかに生かせるかがカギだろう。そのためには自社の販売スタッフ(FA)を多く抱えたままでは難しい側面もある。従来の百貨店アパレルの形態にこだわらないビジネスモデルの転換が求められる。

百貨店アパレルの中には、イトキンのように再生ファンド傘下で再建を目指す動きもある。だが「そのようなことは一切考えていない。あくまで独自経営を維持する」(杉浦社長)。延期された中期計画は来年2月に発表される。そこでステークホルダーを納得させる成長戦略を描くことができるか。同社にとって大きなターニングポイントとなりそうだ。

菊地 悠人 東洋経済 記者

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きくち ゆうと / Yuto Kikuchi

早稲田大学卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界の担当記者を経て2017年10月から東洋経済オンライン編集部。2020年7月よりIT・ゲーム業界の担当記者に。

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