「目立つ戦争」と「目立たない戦争」がある理由 基本的に米国人は他国の紛争に無関心だ
たいていの武力紛争には――南スーダンやスリランカやイエメンなどが舞台になった紛争もそうだ――そうした要素が欠けており、その結果として米国人の関心はほとんど集まらなかった。シリアは珍しい例外で、それは問題の深刻さとはやや異なる理由からだ。
シリア内戦では米国人の生命を含む米国の国益が危険にさらされている。つまり米国人にとってこれは直接関わりのある話なのだ。過激派組織イスラム国(IS)は米国人の人質を殺害したり、欧米でテロ攻撃を行っている。
それにシリア内戦では、何の罪もない犠牲者と卑怯な悪者という人の心を動かす物語があった。ISは厳しい迫害や断首刑を平気で行うテロ組織だ。シリアのアサド大統領とその支援国であるイランは米国に敵対的で、恐るべき残虐行為の黒幕だ。また米国にとって友好国とは言いがたいロシアも、アサド側について戦っている。
イエメン内戦を直視できない政治的理由
2013年にはシリアへの空爆に二の足を踏んだオバマ政権だが、その後は軍事介入の拡大へと転じた。こうした対応によってシリア問題は米国内の政治問題と化し、民主・共和両党の政治家たちは喜んでこの問題に首を突っ込んだ。
大統領選を控えた今年、シリア内戦は政治的議論の格好のテーマとなった。オバマの外交政策の是非を論じたり、中東情勢のさらなる不安定化の責任をいかに問うかといった議論だ。議論は先鋭化するとともにシリアに対する米国民の関心は高止まり。一般大衆も政治家もシリア内戦の重要性を強調する結果となった。
だがこうした事態はめったなことでは起こらない。
イエメン内戦の死者数はシリア内戦より少ないし、アルカイダ系組織が活動しているにしても、欧米に与える影響はシリアほど大きくはない。おまけにイエメンには、わかりやすい善対悪の図式もない。この国ではいくつもの武装勢力が割拠しているし、米国の同盟国であるサウジアラビアは空爆を行っている。米国人が非難の声を浴びせる対象となるような悪の権化は存在しない。
こうした図式は、米政界にとってもあまり魅力的なものではない。反政府武装組織フーシも、わざわざ米国の政治家が攻撃するほどの直接的な脅威ではない。一方、ハディ暫定大統領を支援するサウジアラビアによる空爆では一般市民が殺されたり、病院や援助関係者が狙われたりもしているが、サウジ側を支援しているのは米国だ。
米国の政治家にとって、自国と同盟国を批判したり、なじみのないイエメンの反政府勢力の脅威を大げさに訴えてまでイエメン内戦への国民の関心を高める理由などまず見当たらない。イエメン空爆を問題視した数人の上院議員がサウジアラビアへの武器輸出を制限する法案を提出した際、賛同者がほんの数人しか見つからず、71対27で否決されたのも無理のないことだった。