存在するからといって、編み出せるわけではない
ここで経済学、特にゲーム理論の分野に馴染みが深い、ある定理を紹介しよう。実は、次の条件1から5までを満たすゲームはすべて、
①先手必勝
②後手必勝
③少なくとも引き分けには持ち込める
のどれかに必ず当てはまることが証明されている。
【条件1】最終的なゲームの結果が「先手の勝ち」「後手の勝ち」「引き分け」のいずれか
【条件2】必ず有限回の手番でゲームが終わる
【条件3】それぞれの手番で選択を行うのはどちらか片方だけ
【条件4】各手番において、これまで相手がどんな選択をしてきたかをすべて知ることができる
【条件5】ゲームの中に偶然の要素が入っていない
同様の主張を約百年前に行ったドイツ人数学者の名前をとって、ツェルメロの定理と呼ばれている。
将棋をはじめ、チェスやオセロなどこの5条件すべてを満たすゲームには、理論上、①先手必勝か②後手必勝、あるいは、③引き分けに持ち込む戦略を双方が有する、という3つの可能性しかないことになる。
ただし、このツェルメロの定理は①から③のケースにおける具体的な戦略の求め方については何も教えてくれない点に注意が必要だ。「必勝法がある」のと、「具体的な必勝法を見つけることができる」のとでは大違いなのである。
Not-21のような単純なゲームで必勝法を見つけることは難しくないが、将棋の場合には複雑すぎて、コンピュータといえども必勝法の発見は不可能に近い。ちなみに、将棋で起こりえる局面のパターン数は、10の220乗ほどではないかといわれている。
GPS将棋のように1秒間に3億パターン読んだとしても、すべて読み切るには、10の200乗年以上という、途方もない計算時間がかかる(宇宙の年齢ですら10の10乗年程度にすぎない!)。どんなにコンピュータ将棋ソフトが強くなったとしても、すぐに必勝法が見つかる心配はなさそうだ……
(担当者通信欄)
○×ゲームや数え上げゲーム、あまり深く考えずに遊んで、いつしか必勝法に行き着いた子ども時代、そんな思い出をお持ちの方も多いのではないでしょうか。ツェルメロの定理によって、将棋には必勝法があるか、もしくは必ず引き分けられる手があることが明らかになっています。ただ、あるとわかっているものでさえ、見つけるのがこれほどまでに難しいなら、あるかどうかわからない必勝法を見つけようとすること(現実にしばしば探してしまうような……)の難しさはいかほどか、気が遠くなる思いがします。投資の必勝法なんかもその一つかもしれません。
さて、安田洋祐先生の「インセンティブの作法」最新記事は2013年6月10日(月)発売の「週刊東洋経済(特集は、起業100のアイデア)」に掲載です!
【「空気を読む」に潜む罠、群衆行動が間違える日】
5月23日にITバブル崩壊以来13年ぶりの下げ幅を記録した、日経平均株価。乱高下が続き、投資家の方は穏やかならざる心地でお過ごしになっているのかもしれません。株式市場はその市場への参加者がそれぞれ“合理的”な行動をとっていると考えられるにもかかわらず。ときに“非合理的”に見える動きをすることがあります。その理由はなにか?「情報カスケード」と呼ばれる経済学の理論から考えます!
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