日露経済協力の目玉、サハリン・パイプライン プーチン大統領の訪日に何が期待できるのか

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話題を今年4月から大競争時代に突入した日本のエネルギー市場に転ずると、「パイプラインによる生ガス輸送」がもたらすインパクトは限りなく大きい。「電力小売自由化」に加え、来年4月から「ガス小売全面自由化」が予定されており、天然ガス需要者の行動も以前に比べてダイナミックになっているからだ。

東京電力と中部電力が昨年に火力発電部門の統合に向け共同出資会社(JERA)を設立し、関西電力と東京ガスが今年5月に首都圏でのLNG火力発電所の共同建設に関する検討を始めたように、エネルギー市場ではこれまでにない動きが出ているのは事実である。

だが、その影で「期待外れの『電力自由化』よりもさらに『ガス自由化』は期待外れになる」との懸念が高まっているのも事実である。電力市場やガス市場に参入する際に、その元となる一次エネルギー源を確保できないという大きな障害が残っているからだ。

サハリンから天然ガスパイプラインが敷設されれば、その問題が一気に解消されるため、潜在的な需要者は以前に比べ格段に多くなっていることは間違いない。

パイプラインによる日露関係改善に期待

最後にパイプライン事業が日露間全体の今後の関係に及ぼす影響を触れてみたい。

9月下旬、経団連はロシア経済界との合同会議を12月に日本で開催する方針を固めた。日本企業のロシアへの関心の高さから約4年ぶりの開催となる。「ロシアリスク」を警戒する傾向も根強いが、日露間の信頼醸成にとってパイプライン事業は大きなプラスとなるのではないか。前述のパイプライン議連有志の求めに応じて3月末に来日したガスプロム関連企業の幹部が「パイプラインは日露の懸け橋となる可能性を秘めた重要な事業である」と述べたが、筆者も全く同感である。

領土問題と経済協力のバーターを疑問視する声もある。しかし多くのドイツ人が「旧ソ連にドイツ統一を認めさせた影の功労者はパイプラインである」としみじみと語っていたことを、統一直後のドイツに滞在した筆者は今でも鮮明に記憶している。

ロシアは日本側の提案を踏まえ10月に入り68項目に上る要望を示したが、その中に「サハリンと日本を結ぶガスパイプライン構想」が入っていることが判明した(10月12日付北海道新聞)。

パイプライン構想が日露間の経済協力プランの目玉となる日は近い。
 

藤 和彦 独立行政法人 経済産業研究所 上席研究員

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ふじ かずひこ / Kazuhiko Fuji

独立行政法人経済産業研究所・上席研究員。公益財団法人世界平和研究所・客員研究員。1960年、愛知県生まれ。1984年早稲田大学法学部卒。経済産業省(当時、通産省)入省、産業金融・通商政策・エネルギー・中小企業分野等に携わった後、2003年から内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官等)。2011年公益財団法人世界平和研究所に出向。2016年より現職。著書に『シェール革命の正体  ロシアの天然ガスが日本を救う』 (PHP研究所)、『石油を読む―地政学的発想を超えて 』(日経文庫)、『原油暴落で変わる世界』(日本経済出版社)など。

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