ワイン名産地「ボルドー」を襲う変化の波 生産者農家たちの葛藤と取り組み
オーナーのアラン・ベセットさんによると、同社との取引が始まったのは25年前。先代のオーナーだった父親がフランスの卸売り業者(ネゴシアン)から当時の成城石井の社長を紹介されたのがきっかけだった。それ以来、「契約書を交わしたことはない」(ベセットさん)。
世界のワイン消費を見ると、フランス、イタリアなどワイン大国の1人当たり消費は減少傾向にある。こうした中、日本のワイン消費はリーマンショックが起きた2008年を底に増え続けている。しかも、ワインを好む日本人には「勉強家」が多く、品質にこだわるボルドーの生産者農家にとって、日本は「売りがいのある市場」と言える。
ただ、日本への輸出を手掛ける生産者農家からはこんな声も聞かれる。「日本でボルドーワインといえば“赤”」(ドメーヌ・ドゥ・クローゼのオーナーのダビッド・シオザールさん)。ガロンヌ川とドルドーニュ川に挟まれたアントゥル・ドゥ・メール地区の辛口の白ワインへの評価は高い。ロゼの生産に力を入れるワイナリーもある。
価格的な競争力で「見劣り」
だが、ボルドーのワイナリーに直接足を運べば5ユーロ(570円)を下回る価格で購入できる高品質のワインも、日本で買い求めようとすると税金などの関係で2000円程度になってしまうといったケースも少なくない。そうなると、「価格競争力の面でほかの国・地域の白ワインなどに見劣りしてしまう」(ワイン専門家)。
有機栽培で作ったブドウを原料にした「ビオワイン」の生産を行うアントゥル・ドゥ・メールの「ビニョーブル・ボワッソノウ」は1839年から続くワイナリーだ。一家でワイン作りに携わり、55ヘクタールの広さの土地で赤・白両ワインのブドウを栽培している。
「ビオワインの生産は湿気の少ない(フランス南部の)ラングドック・ルシヨンなどのほうが適している」と父親のクリスチャンさんは話すが、それでも「ビオ(=自然)」重視の姿勢を貫く。「ボルドーのビオワイン」ブランドの確立へ奔走するクリスチャンさんの目には、ボルドーの農家やワイン関連の業者が「保守的」に映るという。
「赤ワインとの差別化を図ろうと白ワインのエチケット(ラベル)を従来のものから変えようとしたら、卸売り業者に“ボルドーのイメージが崩れるからやめてくれ”とくぎを刺されて断念した」(クリスチャンさん)。ワインでの輝かしいまでの成功体験がリスクテイクに対して及び腰にさせてしまっているのだろうか。
ボルドーには、「赤」以外にもフランスの国内外に名をとどろかせるワインがある。「貴腐ワイン」と呼ばれる極甘口の白ワインだ。ボルドーから南、ガロンヌ川の左岸に位置するソーテルヌは世界を代表する貴腐ワインの産地。同地区には「AOCソーテルヌ」という格付けがある。
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