ワイン名産地「ボルドー」を襲う変化の波 生産者農家たちの葛藤と取り組み

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ソーテルヌ地区の「シャトー・ドゥ・ミラ」の貴腐ワインになるブドウ

原料は「貴腐ブドウ」と呼ばれる糖度の高いブドウ。ボトリティスという菌が白ブドウの表面に繁殖することで糖度が増す。「ガロンヌ川とドルドーニュ川の水温の違いから朝霧が発生するとボトリティスが表面につく。その後、霧が消えて晴れ間が広がるのが繁殖にはベスト」。周囲をブドウ畑に囲まれたソーテルヌにあるホテルのオーナーはそう説明してくれた。ブドウ畑が霧に覆われる光景は実に幻想的だ。

貴腐ブドウの栽培には手間がかかる。ボトリティスの繁殖状況を丹念にチェックする必要があるからだ。干しブドウのような状態になったものだけを収穫するため、その作業も機械ではなく手摘みで行う。1ヘクタール当たりの人件費は一般のワインが600ユーロなのに対して、貴腐ワインだと2000ユーロかかる。

収穫したブドウを一定の温度以下で冷却することで貴腐ワインを作る「クリオ・エクストラクション」という醸造方法を用いるワイナリーもある。だが、ソーテルヌ地区バルサック村の「シャトー・ドゥ・ミラ」のエリザベス・ドゥ・ポンタックシャボさんは「システムの投資には多額の費用がかかるため、導入するのは簡単ではない」と語る。

ワイン農家が直面する課題

アントゥル・ドゥ・メールの「シャトー・ドゥ・カストゥネ」のオーナーであるギヨームさんとミレーヌさんのゲネック夫妻がワイナリーを購入したのは2010年。投資資金のうち、醸造所などの建物については40%、水処理設備など環境関連の施設に関しては60%が行政からの補助金で賄われた。

この補助金制度は40歳以下を対象としたもの。若年層のワイン作り参入を促すための仕組みともいえるが、ミレーヌさんは「知り合いでこの制度を利用したという話は聞かない」と打ち明ける。

経営の効率化や後継者対策は、先進国の農業が直面する共通の課題だ。ボルドーのワイン農家もそれと無縁ではいられない。ソーテルヌ地区の甘口ワインの生産者団体である「ボルドー・スウィートワイン連盟」には現在、530の生産者農家が加盟しているが、「加盟する農家の数は今後、減少していくだろう」とフィリップ・ドゥジャン会長は予測する。

6月にオープンした「ラ・シテ・デュ・ヴァン」

一方、ワイン関連で新たな動きも出てきた。今年6月、ボルドーの中心部から北側のガロンヌ川沿いにちょっと変わった建物がお目見えした。「ラ・シテ・デュ・ヴァン」。フランス語で「ワインの街」を意味する同施設は、ワインの産地や歴史などを紹介する展示コーナー、ワインショップ、ワイン講座などのイベントが開かれるスペース、試飲コーナーなどを備えた「ワインのテーマパーク」ともいうべき建物だ。

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