なぜ「円安は日本再生の最強の処方箋」なのか 伝説のトレーダー、藤巻健史氏が語る「本物の円安論」(上)
為替とは、「値段」そのもの
まず識者やマスコミも含め多くの人が、わかっているようでわかっていないのが、「為替とは何か」ということです。
為替とは、何か特殊なものではなく、まさに「値段」そのものです。企業活動から国民の日常生活まで、為替レートはすべてに決定的な影響を及ぼすのです。この認識が、日本人にはあまりにもなさすぎるのではないでしょうか。
モノやサービスの値段、あるいは労働力の値段(賃金のことです)は、国内市場を相手にしようと、海外市場で勝負しようと、すべて〈自国通貨建て価格×為替レート〉で決まります。たとえば日本企業が国内市場でモノやサービスを取引する場合、為替レートはつねに1ですが、国内に参入している他国企業の製品は、円が3倍になれば為替は3分の1になります。当然、日本での販売価格は3分の1に下がるということです。どちらが価格競争力に優れているかは、言うまでもないでしょう。
安倍首相就任で20%以上円安に振れましたが、それまではほぼ1ドル=80円に張り付いていました。1980年代の1ドル=240円の為替レベルと比べると、ちょうど3倍の円高です。この変動が日本企業にどういう影響をもたらしたかというと、海外市場では「3倍の値上げ」となり、日本の国内市場では「3分の1に値下げした外国製品と戦わなければならない」、理不尽なほどのハンディキャップを負わされているわけです。
これが「元気がない」と言われる日本経済の元凶です。円が強すぎるがゆえに、世界の競争相手が値下げをしているときに、日本だけがモノ・サービス・労働力をめちゃくちゃに値上げしなければならないのですから、元気になれるはずがありません。これではいくら技術力があろうと、品質が優れていようと、価格競争力の差で太刀打ちできるはずがありません。
リーマンショック後の株価の回復状況をみても、先進国で最も出遅れが目立つのが日本株です。とにかく日本企業は、他国企業に比べてまったく儲かっていないのですから、株価の低位安定もいたしかたありません。