三井物産に住友商事… 商社の「社内保育所」ブーム
東京・大手町にある三井物産本社1階。皇居を正面に眺める都心の一等地に、この春から子供たちの声が響き渡っている。
今年4月、同社が開設した社内保育所「かるがもファミリー保育園」。ダイバーシティ推進委員会委員長(当時)として、保育所設置を決めた多田博取締役は、「子供のいる家庭では(女性は)なかなか仕事復帰が難しい。日本で遅れている女性の企業への進出を支援しようと考えた」とその意図を説明する。
育児休業からの復職で、まず必要なのが保育所の確保。しかし保育所不足から、希望どおりに入れない、いわゆる待機児童問題があり、東京都だけで約4000人の待機児童がいるとされる。三井物産では、保育所に預けられないことを直接の退職理由にした女性社員はいないが、それでも、望んだタイミングで復職できないケースが複数あった。復職を受け入れる職場側にも、人員計画が立てられないという問題が起こる。
4000万円の投資は会社からのメッセージ
4歳の子供の一時預かりを利用している女性社員は「子供ができてすぐに保育所に登録したが、希望のところに入れなかった。1年半休職したが、もっと早く会社に復帰したかった」と話す。通常の保育時間は朝8時から夕方6時まで。延長保育が9時までという利便性も魅力だ。
三井物産が女性総合職の採用を開始したのは1992年。以降、年1~2人という時期が続いた。その間に出産・育児を経験する女性総合職も出たが、個々人の頑張りで乗り越えてきた。が、2000年以降は女性総合職が増加。出産・育児の予備軍が増え、会社としても真剣に保育所問題に取り組まないと、復職できないケースが続出しかねない。
最善は地元の保育所。都心へ子連れ通勤してまで、はたして利用されるだろうか、という懸念はあった。「ただ、そこに入れなければ復職できない現実がある」(多田取締役)。セカンドベストと割り切って、社内保育所の開設に踏み切った。
つくるに当たって最大限配慮したのが、やはり安全と衛生面。防犯カメラやセキュリティゲートを設置、空調もビル全体とは別に整備した。シックハウス対策の壁紙、アレルギーになりにくいコルクのフローリングは床暖房を完備している。改装等にかかった費用は約4000万円。通勤の負担を軽くするため、おむつなどの備品も用意する。運営費用は年間3000万~4000万円だから、月5万円程度の利用料を徴収しても、当然それだけでは賄えない。
社員全体から見ると、保育所の利用者は限定される。それでも大金をつぎ込むのは、「辞めないで働き続けてほしい。会社は本気でサポートするという経営のメッセージ」(小菅紀子・人事総務部ダイバーシティ推進室室長)だという。
実は住友商事も、今年10月に東京・勝どきの本社ビルに隣接して保育所を開設する。総合商社2社がほぼ同時期に保育所を開設するのは、例によって横並び体質の現れ? だが、今回ばかりはそうではない。