阿部寛、唐沢寿明、織田裕二が経た挫折と成功 三者三様の名優に学ぶビジネススキルの本質

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また、俳優として先入観を持たれないようにバラエティーや情報番組の出演を極力控え、メディア露出を減らすなど、“俳優・織田裕二”を貫いていました。「バラエティーではよくしゃべるのに、撮影現場で自分の意見が言えない」俳優が増える中、織田さんの存在は希少なのです。

これをビジネスマンに置き換えると、「社内外の批判を恐れず、質の高さにフォーカスを絞って仕事をする」ということ。そのことで受けるプレッシャーや孤独を恐れず、「自我ではなく、いい仕事をするために言うべきことは言う」というブレない姿勢は、自分のブランディングにつながっていくものです。

さらに、「やるべき仕事、やりたい仕事を絞って、幅を広げすぎない」のもポイントの1つ。社内外に「自分が何のスペシャリストなのか」を知らしめたいとき、「今、私はこれがやりたい」と訴えたいときは、万能性が邪魔になってしまうことがあるのです。

阿部さん、唐沢さんに比べると、不遇や下積みの時期が少ないのは確かですが、「いきなり売れてしまった」からこそ、その後の俳優人生が難しいものになったのも事実。同様に、入社数年間で評価される人と、時間をかけて管理職になってから評価される人がいますが、長いビジネスマン人生では、どちらにも十分チャンスがあるということに他なりません。

音楽活動にも強いこだわりを見せ、大好きな「世界陸上」(TBS系)でのハイテンションでも知られる織田さん。意思が強く、素朴で飾り気のない姿は、“剛毅木訥(ごうきぼくとつ)”というフレーズが相応しい力強さを感じます。

魅力的な仕事を引き寄せる器

3人のアラフィフ俳優に共通しているのは、年齢を重ねるほど、演技の自由度が高まっていること。演じ慣れた役や、王道のヒーロー像ではなく、「エッ?」と驚くような役柄に挑んでいるのです。

これは裏を返せば、「制作サイドが3人に“ムチャぶり”している」から。ムチャぶりは「受け止める器がある」という信頼の証であり、さらに、「スキルや凄みを引き出そう」としているのでしょう。ビジネスマンでも“自称・仕事ができる男”には無難な仕事しか与えられず、“器の大きい男”に魅力的な仕事が与えられるのと同じなのです。

また、3人が「俺はまだまだ成長したい」「もっと自分の仕事を追求したい」という気持ちを抱き続けているという点も見逃せません。その向上心は、自分を高めるだけでなく、同僚や後輩にいい影響を与えられるなど、いいこと尽くめなのです。

向上心を持った経営者や役職者のいる会社は、例外なく活気があるもの。この秋は、日本俳優界のトップを走り続ける3人を見て、仕事につながる何かを感じてもらえたら、と思います。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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