福岡で11歳児の国際交流が28年も続く理由 アジア太平洋地域の1万人超がホームステイ

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滞在期間中のイベントでは、各国のこども大使がその国の踊りや歌などを次々と披露する

当時はまだメールがなく、電話と郵便が一般的。まずは各国の行政機関などに招聘レターを送った。コンタクトを取ったのは中国、韓国、香港、シンガポール、タイ、オーストラリアなど比較的なじみのある国はもとより、フィジー、キリバス、ナウル、北マリアナ、マーシャルなど多様だ。返事がない場合は、JCスタッフが現地まで説明に赴いた。ロシア(当時はソビエト連邦)では怪しまれて尾行されたり、モンゴルへは中国経由で30時間かけて列車で行ったり…。

また、行政や企業などに協賛を募りつつ、ホームステイの受け入れ家庭や運営ボランティアの確保にも奔走。そうして1989年の夏、35カ国・地域から1010名の子どもと引率者100人を招聘。ホームステイ中、事務局に電話を十数回線も引いて対応にあたったが、ホームシックへの対応からトイレの使い方、イスラム教の食事、お祈りまで、実にさまざまな相談やクレームの嵐だったという。とはいえ、大きなトラブルもなく、無事に終えることができた。

当初は1度だけのつもりだった。だが、行政などから「来年もやってほしい」という声が多く、福岡JCの総会で続行が決定。翌年からは基本的に1カ国・地域から男女8人、ホームステイは一つの家庭に1人ずつと決め、毎年40~46カ国・地域から300~500人ほどを招聘。各国の現地窓口は文部省や教育省などさまざまで、これまで55カ国・地域から合計1万人以上を受け入れてきた。そして28年間でかかわったホストファミリーは7000家庭、市民ボランティア登録は約7500人に上る。運営主体は2002年にNPO法人となり、ボランティアや福岡JCを卒業した人たちがその後を支えた。

福岡から海外へのホームステイも

海外の子どもたちに福岡を知ってもらうだけでなく、福岡の子どもにも海外を経験してほしいと考え、1994年からは福岡の子どもが各国でホームステイする派遣事業をスタート。これまで38カ国・地域へ3744人を派遣した。単なるホームステイではなく、事前に皆で派遣国のことを調べたり、ソーラン節を練習して披露したり、現地の小学校に登校したり、文部省や大使館など公的機関を訪問できるのも、これまでAPCCが培ってきたネットワークがあってこそ。今春にブータンを訪れた15人は、なんと急きょ国王から王宮に招かれて、お茶を飲みながら交流したという幸運なエピソードもある。

「派遣先で日本について聞かれたけど、何も答えられなかった」と嘆く子たちの声に応じて、2008年には育成事業「ウィングキッズ・プログラム」を開始。小学4~6年生30人が1年半かけて日本の歴史や文化を学び、国際交流プログラムを経験し、世界のリーダーとなることをめざしている。1998年には、こども大使として来福したOB・OGで構成する同窓会組織「ブリッジクラブ」を設立し社会奉仕や文化交流を展開。現在は40か国・地域に広がるネットワークを強化している。

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