NASA研究者が語る「宇宙開発の意義」 なぜ宇宙に大金を使うのか

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一般的に語られる、宇宙を目指す理由

宇宙開発は子供に夢を与え、科学技術に興味を持たせることに役立つ、という論がある。そのとおりだろう。以前の記事に書いたように、僕自身がそうして工学の道へと導かれた人間の一人だ。だが、これだけでは満足のいく答えではないとも思う。

長期的な実利を説く人もいる。たとえば、国際宇宙ステーションでは無重力環境を利用した実験が多く行われており、将来的に新薬や新材料の開発に貢献すると期待されている。また、宇宙のために開発された最先端技術を宇宙以外の分野にも応用(スピンオフ)することで社会に貢献できる。たとえば、火星を無人で探査するロボットの技術は、原発内部など人間が立ち入れない環境で作業をするロボットに応用できる。

もちろん、僕はこれらの主張にいっさい異論はない。だが、やはりこれだけではないとも思う。

国が税金を投じて宇宙開発をする今ひとつの理由、そしていくぶんか政治的な理由は、国民に自信を与えることだ。批判的な言葉を使えば「国威発揚」と言えよう。僕はこれも宇宙開発の大事な役割だと思う。

宇宙の例ではないが、カルロス・ゴーンが倒産寸前の日産のCEOに就任し、直後に行ったことのひとつは、経営悪化で生産中止に追い込まれていた高級スポーツカー「フェアレディZ」の開発を再開させたことだった。スポーツカーなど儲かる商売ではない。この決断にはさまざまな意図があったのだろうが、そのひとつは、日産が30年にわたって誇りとしてきた名車を復活させることで、自信を失っていた会社の自尊心を取り戻すことだったと聞く。「自尊心」の効用がどれほどあったか定量的評価は難しかろうが、その後の日産の業績のV字回復はよく知られているとおりである。

宇宙開発競争においてソ連に負け続け、深刻な自信喪失状態にあった1960年代のアメリカにとっての、アポロ計画。GDPを中国に抜かれ、お家芸だった半導体や電機産業の衰退著しい斜陽の技術大国・日本にとっての、小惑星探査機はやぶさ。それは、倒産寸前だった日産にとってのフェアレディZなのだと思う。

宇宙開発には、国の自尊心の拠り所となる力がある。自信喪失状態の国の国民が未来を信じて日々の仕事を頑張ることは難しい。国民に自信を与えることは、宇宙開発にとってとても大事な役割だと僕は思う。

だがしかし、人類が宇宙を目指すべき理由は、まだこれだけではないとも思う。少なくとも僕が宇宙開発に一生を捧げようとする理由はこれだけではない。もっと精神的で、哲学的で、根源的な理由がある。それを今からお話ししたい。

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