どこにもない価値を、生み出す人の習性 あなたに「構想」と「アドリブ」はあるか?

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それらを路線と駅との周辺にうまく統合して配置することによって、阪急沿線というのは、当時の日本において最も魅力的な都市近郊になりました。そのことで小林は都心と近郊をビジネスパーソンが電車で往復する、「電車通勤型ライフスタイル」をつくりました。

旧国鉄が新幹線を開発したときのような、華々しい技術的成功譚は、小林の実績としてはありませんが、小林はやはり世界有数の鉄道王であり、なおかつ、鉄道ビジネス関連のすべてをプロデュースするということで、世界的なオリジナリティを持っています。

もしこれが個々の要素を技術的に磨くことで優位を得ていたら、つまり、通勤生活圏を構成する個々の要素の良し悪しで勝負していたら、社会の変化とともに、それらは陳腐化します。けれども、小林はまさに都市文化のプロデューサーとして、鉄道を取り巻く生活圏、エコシステム全体をデザインし、彼の構想によるライフスタイルは、今日でも競争力を保っています。

しかも関西だけでなく、そのエコシステムのデザインが東急など、他の地域の私鉄にうまく模倣され、普及したために現代日本の大都市圏生活者の全員が、プロデューサー小林の恩恵を受けているといっても過言ではありません。

もしこれが仮に小林自身が鉄道技術者だったら、ほかの人も取り組みうる鉄道運行システム自体の技術改良にエネルギーを割いたかもしれません。それは、いわばディレクターの仕事です。しかし、彼はそれをしなかった代わりに、大阪周辺の地域社会生活に鉄道がいかにあるべきなのかを、誰よりも考えたのだと思います。

ここで私は、最近の日本の家電製品の事例を思い起こします。ある大手家電メーカーが自社製品のエアコンとスマートフォンを連携させて、外出先からでもエアコンを電源オンできるという機能をつけて、華々しく発表しました。しかし発表してから、それが電気用品安全法違反だということがわかり、後からその機能を取り消さざるをえなかったということがありました。

その背景には、制御に使う信号が有線か赤外線なら安全だが、無線では混信の可能性がある、という監督官庁の危惧があったといいます。家電メーカー側には、そうした危険は回避できる技術的見込みがあったそうですが、それを監督官庁がどう解釈するかについては予想外のことが起きてしまったということです。

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