一方、2017年9月に行われるドイツの連邦議会選挙でも、2016年に入ってから不透明感が漂い始めています。メルケル首相はこれまで、国民の支持を失わないような政権運営に注視してきました。繰り返されたギリシャ危機に際しても、メルケル首相がギリギリまで妥協しなかったのは、国民の支持率を意識してのことでした。
ところが、彼女は2016年に入って難民の受け入れ問題で大きくつまずき、今では政策転換を迫られるようになっています。国内で難民による暴行事件やテロ事件が相次いだことにより、難民に寛容な姿勢を取ってきたメルケル政権への批判が強まってしまったのです。
2016年8月時点で、メルケル首相の支持率は45%まで落ち込み、過去5年間で最低となっています。メルケル首相が属するキリスト教民主同盟では、今の流れのままでは連邦議会選挙で敗北してしまうというという危機感が高まってきています。
実際に2016年3月と9月の地方議会選挙では、与党であるキリスト教民主同盟と社会民主党が得票率を減らした一方で、極右政党「ドイツのための選択肢」が初めて議席を獲得しています。その後の暴行事件やテロ事件の影響もあり、今では与党にさらなる逆風が吹いているのは間違いなく、メルケル首相の与党内での権力基盤が揺らいできているのです。
連邦議会選挙で大いに躍進するだろうといわれている極右政党「ドイツのための選択肢」は、2013年に発足したばかりの新しい政党です。発足当初は党是として「反ユーロ」を掲げていましたが、「反移民」が票になるとみると極右政党へと衣替えを行い、今やドイツ全域で移民・難民を激しく攻撃し、急速に支持を拡大しています。
独メルケル政権の試練はEUやユーロの弱体化に直結
私が深刻であると思うのは、2016年5月には連邦議会選挙を見据えて党の綱領を採択し、ユーロ圏からの離脱、徴兵制の復活、同性愛者や異教徒の排斥などを唱えているということです。ナチスへの反省を忘れ、愛国心のためならイスラム教徒や有色人種を差別しても許されるというのです。
さらに心配であるのは、そのような綱領を採択した後でも、世論調査での支持率が伸び続けているということです。いちばん直近の世論調査では、二大政党に続く支持率を獲得し、もはや泡沫政党とはいえない状況にまでなってきているのです。ドイツ国民の大半は反移民を否定してはいるものの、年間100万人もの難民流入のペースは速すぎるという反感を持っています。そのように反感を持つ人々を上手く取り込み、「ドイツのための選択肢」が下院議会で第2党にでも躍進することになれば、今のように上位2党で過半数を形成することが困難になるかもしれず、政権樹立のための連立交渉が難航することも考えられるというわけです。
ここで注意しなければならないのは、メルケル政権が弱体化するというのは、EUやユーロ圏の弱体化に直結する大問題であるということです。フランスでは国民戦線が大躍進を遂げる可能性が日に日に高まっているなかで、ドイツでも与党が連邦議会選挙で敗れ、極右やナショナリズムに席巻されるような事態になれば、EUやユーロ圏をまとめきれる人物がいなくなってしまうのです。そのようなわけで、2017年はまさに欧州の正念場になるだろうと考えていますが、選挙結果を左右しかねない凄惨なテロ事件が今後の欧州では起こらないことを祈るばかりです。
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