Spotifyは日本の音楽市場を変えられるか 世界ナンバーワン配信サービスの行方は?

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Spotifyは4年間、何もしてこなかったわけではない。日本市場への参入を決意したとき、すでにSpotifyは米国市場を破竹の勢いで進撃しており、アップルはダウンロード型音楽配信サービスのiTunes事業見直しを迫られ、Apple Musicの誕生へとつながった。

有料サービスへの転換率は驚異的だ

無料でも十分楽しめるにもかかわらず、その有料転換率は高く3割を超える。Spotifyが強調するのは、この有料転換率だ。”無料で聴ける”ことで多くの利用者を呼び込み、そこから有料ユーザーに転換してもらうことで、音楽コンテンツへのキャッシュフローを最大化するというシナリオを標榜している。

Spotifyは有料加入者数が今年3月にグローバルで3000万人を超えたことを発表したが、そのときの総ユーザー数は1億人程度。つまり有料転換率は3割である。さらに注目されるのは、Apple Musicなどの強いライバルがいるにもかかわらず、8月末の段階で3900万人まで有料加入者数が増加していることだ。わずか半年で900万も有料契約が増えたことになり、これは驚異的といえるだろう。

独特の広告スタイル

Spotifyは日本市場における優位性として、まずは無料の音楽配信サービスとして利用できることを真っ先に挙げる。海外では無料利用の音楽配信サービスでライバルもあるが、日本では市場が確立されておらず、今後成長すると考えられているデジタル音声広告含め、グローバルで成功してきた新しい広告フォーマットの提案を行えることが優位性だとしている。

たとえば、Spotifyでは1画面に対して同時に1つの広告しか表示しない。加えて利用者が画面を見てない……すなわち、何か別の事をしながら音楽再生しているだけの場合は、そもそも広告を表示しない。利用者の邪魔になりにくい広告スキームを開発しているからこそ無料プランを用意できるというわけだ。

音楽に興味を持ってくれる消費者を集めるため、エサとして無料で使える音楽再生ソフトをバラまくのではなく、対価を支払うまでではないものの、音楽に興味を持っている消費者層に対して広告によってマネタイズを行い、産業全体のキャッシュフローを増やしているということだ。

この考え方や新タイプの広告に対する理解を拡げるのに時間がかかり、日本でのサービスインが遅れたのだろう。その間、Spotifyへの楽曲提供によりCD売上げが落ちたと主張したり、提供を中止すると発表する大物アーティストのニュースが駆け巡ったこともマイナスに働いただろう。

利用者の利点も小さくないとSpotifyは主張する。再生する音楽の傾向などから自動的に抽出・楽曲推奨する仕組みだけでなく、音楽誌のようにきちんと編集して人の意思が込められたプレイリストが1日最高8回まで更新するサービスも盛り込まれるなど、サービスの質が違うというのだ。新たな音楽との出会い・発見を演出することで、一人ひとりが音楽を楽しむ時間を増やし、また飽きずに新しい音楽と出会っていく仕組みが組み込まれた。

また日本のアーティストを世界で羽ばたかせることができるのも、音楽配信サービス専業で60カ国に配信するSpotifyなら可能だ……とも主張している。これは「定額制の音楽配信サービスが従来の音楽産業が育ててきた音楽カルチャーやコンテンツを”定額制”のもとで消費しているだけで、音楽アーティスト(音楽コンテンツが生まれてくる土壌)の育成に貢献していない」という批判に対する彼らの側からの”発信”ということになるだろう。

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