「会社は学校の延長」は、正しい教え方か?
新卒採用の季節に振り返りたい、日本の雇用慣行の変遷史

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「いつまでも学校」な発想が、行きついた果てに

とはいえ、それはあくまでも主従関係だから、(解雇の恐れは低いかわりに)遠地への転勤や服務内容の変更について、日本の企業は強い命令権を持つ。

今野晴貴・著『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』(文藝春秋、2012年)

低成長時代にこれが悪用されると、洗脳まがいの研修を命じて非人間的な労働環境に社員を順応させる、いわゆるブラック企業が出現するというのが、今野晴貴『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』の見解だ。

それはまさに、人生経路のすべてが「学校の延長」として設計されてきた、日本的雇用のディストピアにほかならない。

そんな企業に学生が応募してしまい、かつ辞めずに適応しようと「学習」を続けてしまうのも、所属先を失って「非国民」になることへの恐れがあるからだろう。

だから、この春新たに大学や職場の門をくぐったばかりのあなたに伝えたい。

あなたが今いる場所は、あくまであなたが持つ可能性の「ひとつ」だ。日本という単位ですら、働き方が時代に応じて変わってきたように、あなたにもまた、変わるチャンスと権利があるのだと。 

 

【初出:2013.4.6「週刊東洋経済(給料大格差時代)」

(担当者通信欄)

市場がアベノミクスに沸いてもすぐに企業の採用姿勢に影響が及ぶとは限りません。今年の新卒採用動向が急に甘くなったりするとは考えにくいこと、またいわゆる『ブラック企業』問題など、雇用関連の話題には事欠かないこの頃です。企業から脱け出すのが難しいことと考えられているからこそ、離職率、待遇、働き方などが、失敗できない(したくない)就職活動の指標として大きな意味を持つのかもしれません。就職活動中の学生さんたちを街中で見かけることも多いこの季節。年齢はそう変わらないはずなのに、なぜ就活生と新入社員の見分けがついてしまうのかは、数年来の疑問です。

さて、與那覇潤先生の「歴史になる一歩手前」最新記事は2013年5月7日(火)発売の「週刊東洋経済(特集は、不動産2極化時代)」に掲載!
【憲法は永遠に「12歳」か? 成熟と喪失の戦後文化論】

「大人になりたくない」を歴史から見ると?仮面ライダーにエヴァンゲリオン、デコレーショントラックにパチンコ……そこにある欲求と熱狂とは?「憲法記念日」「こどもの日」という祝日のならびに目をやりつつ、日本人の成熟と喪失を考える!

 

現在の日本について、歴史から考えてみたい方は、2012年9月刊行の『「日本史」の終わり 変わる世界、変われない日本人』(池田信夫氏との共著、PHP研究所)を。

2011年刊行の話題書!『中国化する日本 日中「文明の衝突」一千年史』(文藝春秋)
 
『大学は出たけれど』の小津安二郎をとりあげる。『帝国の残影―兵士・小津安二郎の昭和史』(NTT出版、2011年)

 

與那覇 潤 評論家

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よなは じゅん / Jun Yonaha

1979年、神奈川県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。学者時代の専門は日本近現代史。地方公立大学准教授として教鞭をとった後、双極性障害にともなう重度のうつにより退職。2018年に自身の病気と離職の体験をつづった『知性は死なない』が話題となる。著書に『中国化する日本』『日本人はなぜ存在するか』『歴史なき時代に』『平成史』ほか多数。2020年、『心を病んだらいけないの?』(斎藤環氏との共著)で第19回小林秀雄賞受賞。

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