沿線人口にも影響?特急料金値上げの波紋 利用者数減少で自治体が人口流出懸念
以上見てきたように、常磐線特急の全車指定席化・特急料金の変更は消費者にとって不利な内容となっている面があるが、特急料金制度の変更を実行したJR東日本の意図は何か。主に次の2点を挙げることができるだろう。
特急の乗車人員減少に伴い特急料金収入減が発生したとしても、車掌や特急改札口係員の要員削減によるコスト削減が特急料金収入減を上回ったり、普通列車グリーン車の利用が増加したりすれば、JR東日本にとっては増益となる。
しかし、車掌要員を減らしたいのであれば、筆者が以前、自著(『「通勤ライナー」はなぜ乗客にも鉄道会社にも特なのか』東京堂出版、2013年)で提案したICカードによる自由席特急券システムの導入という方法もある。また、車内料金を事前料金よりも割高にすることで特急券を所持しない乗車を一定程度減らすことも可能であろう。車内料金を割高にすることでグリーン券の車内発券を抑制できることは、普通列車グリーン車で実証済みである。
ちなみに、特急料金の変更で、特急料金(事前)は普通列車グリーン料金(平日事前)と比べて、50km以下の区間で260円安(自由席特急料金との差)が20円安に、100km以下の区間で50円安(同)が20円高となり、普通列車グリーン料金の割高感の解消が実現している。
普通と同じ速さの特急に乗る価値
一方、JR東日本による特急料金変更を後押しする要因のひとつとしては、在来線特急料金の変更が容易であることを挙げることができる。新幹線特急料金は「認可制」(鉄道事業法施行規則第32条第2項)であり変更の場合に審査があるのに対して、在来線特急料金は「届出制」(鉄道事業法第16条第4項)であるため変更は容易である。在来線特急料金に関する現行制度の下では、今後も消費者保護が後回しにされる懸念が拭えない。
たとえ全車指定席化によって費用削減が実現したとしても、特急乗車人員が減少したという事実は、特急料金を支払う意思のある旅客から料金を得るチャンスを相当程度失ったことを意味する。また、値上げで割高感が高まれば、特急の魅力低下にもつながりかねない。
消費者は、速達性と快適性(=着席および居住性)によるメリットを得る対価として特急料金を支払うが、特急料金がこうしたメリットと釣り合わない場合、消費者に選ばれることは難しくなる。常磐線の平日朝の通勤時間帯では、以下で述べるように普通列車と所要時間が同じかまたは遅い特急があるが、速達の価値がない以上、特急料金が快適性の価値に見合うかどうかが消費者にとって選択の判断基準となる。
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