自動車も円安継続で輸出増とは限らない トヨタ、日産、ホンダの円安の影響はどの程度か

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今後の利益増は主に海外生産による

為替レートは、昨年秋から約2割円安になった。現在程度のレートが今後も続くことを前提にした場合に、自動車メーカーの利益はどの程度増えるだろうか? 上で述べたモデルを用いて、評価してみよう。

04~07年の場合と違うのは、輸出が増加するとは考えられないことだ。国内の販売も減少するだろう。

なお、13年1月における大手3社の数字は、次のとおりだ。国内生産は、どの社も対前年比減だ(トヨタが5.7%減、日産自動車が26.4%減、ホンダが40.3%減)。他方で、海外生産は増になっている(トヨタが5.3%増、日産が13.4%増、ホンダが29.7%増)。

13年2月の輸出の対前年比は、数量で11.7%の減、輸出額で5.3%の減だ。

各社ごとに見ると、13年1月の輸出台数の対前年比は、トヨタが10.5%増、日産が34.5%減、ホンダが59.8%減などと、かなりのバラツキがある。

われわれの目的は円安が営業利益に与える影響の分析なので、簡単化のために国内販売も、ドルベース輸出も、ドル建て価格も、現状からの増減率がゼロであると仮定しよう。

海外生産は、増える可能性がある。右のモデルを言い換えると、海外生産量が増加した場合、それによる円建て営業利益は、生産量増加率+為替レートの減価率に等しい増加率で増える。したがって、海外生産量の増加率をg'、連結利益中の海外生産による比率をfとすれば、円換算の連結利益増加率は、(e+g')fだ。

自動車産業全体では、fの値は0.49である。大手ではもっと高い。13年1月における国内販売、輸出、海外生産の数字(単位・万台)は、トヨタがそれぞれ13、14、44、日産が3、4、33。ホンダが5、1、28だ。したがって、トヨタの場合にはf=0.61なので、2割の円安を前提とし、かつ海外生産量の増加率を1割とすれば、利益は18%程度増加する。日産やホンダはfが0.8程度なので、24%ほど増える。

他方で、13年4月初めの株価の12年11月初めの株価に対する上昇率は、トヨタ56.8%、日産30.7%、ホンダ52.6%だ。右の計算値に比べると、かなり高い。右のモデルによれは、海外比率が低い方が上昇率は低くなるはずだが、実際にはトヨタの方が上昇率は高くなっている。これは、輸出が増えていることが評価されているからだろう。

このように、個別企業別に見ると、さまざまな要因を考えなければならない。また、世界経済の推移によって今後の輸出や海外生産台数は大きな影響を受ける。そして、これらは、大きな不確実性がある。少なくとも、「円安が続けば、必ず利益が増加する」ということにはならないことに注意する必要がある。

週刊東洋経済2013年4月20日号

野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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