「米9月利上げはない」と本当に言い切れるか FRBの過保護政策と日銀過信相場の終わり

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こうしたコメントを見る限り、「総括的な検証」の主眼は、「何が2%の実現を阻害したのか」という「言い訳探し」に置かれることが想像される。

過去の「総括的な検証」といった場合、「Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善作業)」という「P-D-C-A」サイクルの「C」の部分を指すのが一般的だ。そして、この「C」は客観的なデータをもとに予断を持たずに行うものだ。というのも、客観性を欠いた「C」に基づいて出される「A」は「改善」に繋がるどころか、事態を悪化させる可能性があるからだ。

つまり、現在の金融政策が「2%の物価安定目標を達成できるはずの政策」だという前提に立った「総括的な検証」など、何の意味もない。仮に「総括的な検証」で「何が2%の実現を阻害したのか」という原因が明らかにしたとしても、それは「現状の金融政策では解決できない原因」である可能性が高いのだから。

ECBによる配慮も、結果的に市場に失望を与える懸念

問題は意味のない「総括的な検証」で「現状の金融政策で解決できない原因」が明らかになった場合、黒田日銀に「現状の金融政策」を修正、変更する意思があるかだ。もし修正・変更するのであれば、現在の金融政策では「2%の物価安定目標」を達成できないことを認める必要がある。

「あくまで2%の早期実現のために行う検証ですから、市場の一部でいわれているような緩和の縮小という方向の議論ではありません」(同)

黒田総裁がこのように明言していることからも、「総括的な検証」で出される結果は「現在の金融政策をさらに推し進める」以外には考えにくい。これは、「量的緩和」「マイナス金利政策」に限界を感じている市場に失望を与える要因になり得るものだ。

日銀にとってさらに苦しいのは、同じく「量的緩和」と「マイナス金利政策」を続けるECB(欧州中央銀行)との関係だ。

今月開催されたECB理事会後の会見で、ドラギECB総裁は「理事会は当該委員会に対し、買い入れプログラムの円滑な実施を確実にするための選択肢を検討するよう指示した」と発言している。もし今回日銀が「総括的な検証」で「量的緩和」と「マイナス金利政策」の限界を口にした場合、ECBの金融政策の効果にも疑問を投げかけることになり、市場に混乱を招きかねない。

こうしたことを考えると、今回の「総括的な検証」ではこれまでの金融政策の有効性を再主張するだけで、「マイナス金利の深堀り」など既存政策の強化を決めるにとどまりそうだ。

ECBが今後「新しい選択肢」を打ち出すかも、日銀にとっては悩みの種となりそうだ。もし、今後ECBが、日銀が考え付かなかったような「新しい選択肢」を打ち出した場合、日銀の政策決定能力に疑問が投げかけられることになるからだ。

金融政策に対する不信感に基づく批判を逃れるために「総括的な検証」という言葉を持ち出した黒田日銀。しかし、「宿題の提出期限」が到来したことで、市場からその政策能力に一層厳しい視線を浴びることになってしまった。

FRBの追加利上げがあるのか、はたまた日銀がさらなる緩和策を打ち出すか。市場は日米金融当局の短期的な動きに関心を寄せているが、金融政策の変更よりも、「FRBが過保護政策を続けるか」「日銀の政策能力に疑問が投げかけられるか」という「根本的変化」が起きるか否かが、最大の注目点かもしれない。
 

近藤 駿介 金融・経済評論家/コラムニスト

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こんどう しゅんすけ / Shunsuke Kondo

1957年東京生まれ、早稲田大学理工学部土木工学科卒業後、総合建設会社勤務を経て、31歳で野村投信(現野村アセットマネジメント)に入社。株式、債券、先物・オプション取引等を担当した後、野村総合研究所に出向しストラテジストとして活躍。再び、野村アセットに戻ってからは、担当ファンドが東洋経済の年間運用成績第2位に選出されるなどファンドマネージャーとして活躍。その他、運用責任者として、日本初の上場投資信託(ETF)である「日経300上場投信」の設定・上場を成功させ、1996年に野村アセット初のプロフェッショナル・ファンドマネージャーとなる。現在は金融や資産運用に関する客観的な知識を広めるべく、合同会社アナザーステージを立ち上げ、会長兼CEOとして、一般向けの金融セミナーや投資セミナーなど専門家向けセミナー等も開催中。自身が手掛けるメルマガ『マーケット・オピニオン』は、個人投資家から圧倒的な支持を得る。

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