「米9月利上げはない」と本当に言い切れるか FRBの過保護政策と日銀過信相場の終わり

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もし今週のFOMCでの利上げが見送られるとしたら、その理由として考えられるのは二つ。「経済指標が利上げを正当化するにはまだ不十分な状況」か、「市場が利上げを十分に織り込んでいない状況での利上げは、金融市場に動揺を与えかねない」かのどちらかになるだろう。

前者に関連して言えば、市場が9月のFOMCでの利上げを織り込んでいない主な理由は、8月の雇用統計で非農業部門雇用者数が市場予想を下回る前月比15.1万人増にとどまったことに加え、米供給管理協会(ISM)が発表した8月の米製造業景気指数が前月比で3.2ポイント下落の49.4と、2月以来半年ぶりに節目の50を割り込むなど、「経済指標が利上げを正当化するには不十分な状況」だという認識が広がっているからだ。

しかし、こうした市場の認識が、イエレンFRB議長のそれと一致しているかは定かではない。

「利上げ見送り」は政策決定権を市場に渡すことに

イエレンFRB議長は、9年半ぶりに利上げに踏み切った昨年12月のFOMC直前に行われた上下両院経済合同委員会で「毎月10万人弱の雇用ペースを確保できれば、労働力への新規参入者を吸収できる」と証言している。

市場は8月の非農業部門雇用者数が15.1万にとどまったことで利上げが先送りされると見込んでいる。しかし、8月の数字はもとより、6月から8月までの3か月平均の非農業部門雇用者数の増加は約23.3万人となっており、イエレンFRB議長が昨年末の利上げ前に示した「毎月10万人弱」という水準を大幅に上回っている。このように考えると、市場のコンセンサスは「客観的見込み」ではなく、「希望」に基づいたものだともいえる。

仮にイエレンFRB議長が「経済指標が利上げを正当化するには不十分な状況」だという見解を示して利上げを先送りした場合、「20万人以上でもダメなんですか」ということになり、昨年の利上げ前の発言との整合性が失われることになる。

こうした事態を避けるためには、利上げ先送りする場合には「市場が利上げを十分に織り込んでいない状況での利上げは金融市場に動揺を与えかねない」という説明をするしかなくなってしまう。

しかし、市場動向が金融政策に影響を及ぼすことを認めるというのは中央銀行にとって最大のタブーである。仮に「市場が利上げを十分に織り込んでいない状況での利上げは金融市場に動揺を与えかねない」という理由で利上げが先送りされるなら、「利上げは経済指標次第」として来たFRBの見解が嘘だったことになってしまうばかりか、金融政策の決定権を市場に渡すことになってしまう。

これは、FRBが市場のコントロールを放棄することを意味するものだ。こうしたリスクをFRBがとるだろうか。

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