このからくりを理解するためには、「新情報(new information)」と「旧情報(old information)」という概念をまず知る必要がある。「新情報」とは、読者が文章中のある文を読んでいる時点において初出の情報である。その文を読み終えると、その情報は読者にとって既知となる。そのような情報を「旧情報」という。
この概念を用いて、なぜ文章Bのほうが読みやすいのかを説明しよう。
文章Bの第1文を読み終えた時点で、読者にとってはSamantha、her dog、そしてthe dog parkなどが旧情報となる。次に読者は第2文に取り掛かるのだが、この冒頭にある“The dog park is…”は、たった今、旧情報になったばかりの、既知の情報である。この時点で読者は第1文と第2文の関係を理解できる。そしてその後に“the city of San Jose”という新情報が続くので、新情報と旧情報との関連性も直ちに理解できる。
次に、読者が第2文を読み終えると、“the city of San Jose”は旧情報となる。そして第3文の冒頭に、今旧情報になったばかりのthe city of San Joseがトピックとして掲げられているから、第2文と第3文がスムーズにつながる。
つまり、以下の図に示すように、それぞれの文が旧情報から始まり新情報で終わるという構造を取り、それが1本の鎖のようにつながって文章を構成するとき、読者は情報をスムーズに理解でき、「読みやすい」と感じる。これが「新情報の後置」という概念である。
では、なぜ文章Aが読みづらいか。第1文を読み終えた時点でSamantha、her dog、 そしてthe dog parkなどが旧情報となるのは文章Aと同じだ。しかし、第2文の冒頭を読むと、”The city of San Jose”という新情報が唐突に提示される。この情報が今まで読んだ旧情報とどうつながるのか、第2文の最後まで読まなくてはわからない。だから読みづらいのだ。
一般的に、英語圏の人は新情報の後置を好む傾向が強いと言われている。だから、日本人が彼らに向けて話したり書いたりするときには、それを意図的に行うことで、相手に理解してもらいやすくなる。
そして私見だが、日本語においても、やはり新情報を後置する語順のほうが、断然理解しやすくなると思う。もし僕の一連の連載記事を「読みやすい」と感じていただけたらならば、その理由は、情報を提示する順序をつねに意識して書いているからである。
情報を提示する順序についてはほかにも多くの方法論がある。詳しくはScience of scientific writing (George D. Gopen and Judith A. Swan, in the American Scientist, Vol. 78, pp. 550-558)という記事を参考にされたい。たった20ページ弱の記事だが、僕の目からこれほど多くの鱗が落ちた記事はほかになかった。
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