赤字続く日本板硝子、会長退任で再建なるか 英社買収を主導した藤本氏が退く

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買収後は、事業面でも極めて厳しい。藤本氏にとって誤算だったのは、ピルキントンの主戦場である欧州がリーマンショックや債務危機で大不況に陥り、業績に壊滅的な打撃を与えたことだ。事業撤退や希望退職の募集など、国内外で度重なるリストラを余儀なくされ、多額の損失を計上。買収によって膨らんだ有利子負債の金利負担も重くのしかかっており、前13年3月期は280億円の純損失と2期連続の赤字を見込んでいる。日本板硝子は35年ぶりに無配とする方針を明らかにしており、藤本氏の辞任はこれらの責任を取る格好だ。

資金繰りに不安残る

今後は、昨年4月に就任した吉川恵治社長が中心となって経営再建に取り組むが、課題は多い。

13年3月期に行ったリストラによる利益の押し上げ効果は100億円程度で、今14年3月期は3期連続の赤字が避けられない見通しだ。元社員は「事業撤退もあり、多くの優秀な人材が去った。外国人の社長が続いて人事や物流など経営システムはグローバル仕様に一新されたが、効果は出ていない」と話す。

資金繰りの不安も絶えない。日本板硝子の有利子負債は、12年12月末時点で4200億円超に上っており、自己資本比率は約17%にとどまる。売上高有利子負債比率は約8割と高水準だ。

14年3月期に返済期限を迎える約1100億円については、前倒しで借り換えを進めており、790億円は今年3月末に協調融資などで確保した。残る約300億円についても、メインバンクの三井住友銀行と協議を続けているという。

これで当面の資金の手当てにある程度メドがついたが、事業の先行きが依然として不透明な中では、一時しのぎにすぎない。みずほ証券の高橋光佳シニアクレジットアナリストは「(借り換えに応じたことで)銀行は1~2年先の営業黒字体質への転換を求めて経営関与を深めた感がある。日本板硝子のリストラのスピードが遅いため、計画で決まっている以上のリストラを海外中心に行うのはほぼ間違いない」と言う。

大きなリスクを負って世界に打って出た結果が裏目に出た日本板硝子。藤本氏ら過去の経営陣が残した負の遺産の整理には、かなり時間がかかりそうだ。

(撮影:尾形文繁)

週刊東洋経済2013年4月13日号

古庄 英一 東洋経済 記者

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ふるしょう えいいち / Eiichi Furusho

2000年以降、株式マーケット関連の雑誌編集に携わり、『会社四季報』の英語版『JAPAN COMPANY HANDBOOK』、『株式ウイークリー』の各編集長などを歴任。

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